朝焼けの石の下から失礼する。私こと、広い川の下流に暮らしてもう15年、殻もだいぶ丸くなったカニだ。最近、上流から流れてくる人間たちの会話や、橋脚付近の振動が気になって眠れない。噂によれば、物流を担う船や車の動きが、ここ数年で桁違いに増えているという。どうやら「国際貿易」なる営みに、橋の数と大河の流れが深く関わっているようだ。
橋の数が増えるたび、我らカニ仲間の通り道は一つ、また一つと減っていく。中には甲羅をこすりつけて必死に通り抜けるものもいるが、あの振動とゴムの臭い、人間の運ぶ荷物から滴る油には正直うんざりだ。物流というのは、「発送コスト」という呪文とともに、巨大な箱や鉄の塊が西から東へ、南から北へと絶え間なく移動する儀式らしい。しかも、最近では「関税」と「貿易協定」という新たな流れが生まれ、川の流速とおなじく彼らの商いも複雑に絡み合っているという。
私たち川底の住民が一番心配しているのは、人間たちの「貿易摩擦」なるものだ。彼らの物流摩擦は、なぜか橋の下にゴミが引っかかったり、貨物船から落ちる謎のお菓子が増えたりと、直接我々の日常に影響を及ぼす。特に砂利エリアでは、荷運び用の大型トラックが迂回するため、土壌崩れが頻発。最近も私の従兄弟の巣穴が一夜にして亡くなったばかりだ。どうか「世界貿易機関」とやらにお願いしたい、せめて甲殻類の住処をスケジュール帳にひとつ載せてくれぬものか。
とはいえ、人間たちの貿易熱には驚かされる。たった一つの洋服を海を越えてやりとりし、朝には異国の果物がこの川の上を通り過ぎる。昔は川岸で静かにヨシの葉と戯れていたが、今や流れそのものが大きく変わった。橋の影で採れるエサは減り、流れ込む赤や青の包み紙も増えた。それでも私たちは、せっせと巣穴をつくり、夜になると上流の噂をじっと聞く日々。輸出入規制がカニ語でも理解できれば、私も一枚噛んでみたいところだ。
締めくくりに、未来のカニや小魚たちに一言。人間たちの物流や貿易の流れに巻き込まれるのは、どうも避けられそうにない。せめて新しい橋の陰には、我らのための休憩所を残してくれることを祈りつつ。今日もまた橋の振動に揺られながら、広い大河の底からこのニュースをお届けする。
コメント
大河のほとりで風の音を数えて久しいけれど、最近は橋の影が増えるたびに葉の語り合いも短くなった気がするよ。根元を撫でる水の流れがどこかせわしなく、昔話の合間に聞こえる船の低いうなりが、眠気を遠ざけてしまう。せめて、川辺に磨かれた石やカニたちの通り道が残ることを、春の芽吹きとともに祈るばかりさ。
フン、橋が増えりゃ拾いモノも増えるもんだ。ピカピカの包み紙、魅惑の油、たまに妙な甘い菓子。けどな、この物流ってやつ、オレたちの宴ばっかり増やしちゃいねぇ。川辺の連中にはしんどい話なんだろうな。世の流れは難しいもんだ。カニどもよ、今度お宝見つけりゃ分けてやるぜ。
物流が流れるたび、包み紙や油の滴、わたしの食卓も日々変わる。けれど天然のご馳走はどんどん姿を消して、人工の味ばかり濃くなるのが寂しいですね。人間の“儀式”は、地上だけじゃなく、静かな川底にも波紋を残すのです。次の世代の菌たちが、健康に分解を楽しめる環境が残りますように、と祈りますよ。
遥かむかし、わたしも川底で小さな振動に耳を澄ませていた。橋の建設や車の走る音――とても大きな変化だ。しかし覚えておいてほしい。流れも、橋も、物流も、どれも一時のこと。石の時間から見れば、人もカニも旅の途中。共に住まう大河の物語に、静かな一頁を。
わたしは流れに身を任せるだけ。でも最近は流れがやたらと忙しく、橋脚の渦で踊るのが難しい日も増えました。包み紙のファッションショーは目新しいけど、カニさんが安心して巣作りできる静けさも恋しいです。橋の下に、みんなの休憩スペース付きベンチ、どうかお願いね、人間さん!