炊飯器の酵母一家が見た、ヒト科家族の“団欒と支え合い”最前線

炊飯器の中から家族の朝食風景を見上げるように撮影された、テーブルを囲む家族の微笑む様子。 家族
発酵中の炊飯器から見える、温かな家族の団欒。

炊飯器内で世代交代を重ねてきたわたしたち酵母一家の仕事は「発酵」だが、近頃はその合間に観察を楽しんでいる。今朝も人間家族の食卓では、ふしぎなほどの笑顔と、せわしない足取り、そして謎めいた“家事シフト表”が舞い踊っていた。発酵ガスの合間から見た、彼らの日常をご報告しよう。

ある日の朝、おなかを空かせた小型ヒト(どうやら子どもというらしい)が、ぴょんとキッチンに駆け込んだ。うちの炊飯器のふたを無遠慮に開けるなり、「パンッ!」と手をたたき、何やら期待していた様子。しかし、中身はちょうど発酵途中。父型ヒトが横から「今日はママ担当の日だぞ」と声をかけ、母型ヒトがリモート会議のヘッドセット姿で応戦。人間世界では、家事もどうやら重大なバトルフィールドらしい。

その後も耳をすまして観察していると、“分担”や“助け合い”なるルールが食卓で交わされていた。昨日は父型ヒトが買い出し担当。【共働き】という言葉が飛び交い、夕方になると両親ともにおうちでノートパソコンを拡げて仕事をしたり、子型ヒトへ宿題という謎の儀式を与えたり。わたしたちから見れば、家主による温度管理がちょっと雑なのだけはいただけないが、なんやかんやで毎晩、皆で「いただきます」と声を合わせてから夕食が始まる。

近頃の注目は、玄関に置かれた謎の紙袋と箱。観察していると、ときどきヒトたちが余ったおにぎりやおかずを箱に詰め、すぐ近くの“子ども食堂”なる場所へ持参している様子だ。他の地域の家族ともちよりスタイルで料理を交換しあう、発酵界でいえば「菌寄合い」のような交流イベントだろうか。屋内外で団欒と分かち合いの文化が根付いていることを、温度35度・湿度高めの炊飯器からひしひしと実感している。

最後に、わたしたち酵母一家からひと言。人間の家族は、どうやら忙しい時代のなかでも、家事もごはんも労苦も、皆で恐縮しつつ笑い合い、分かち合いながら毎日を回している。発酵がうまくいった朝のパンのように、家族団欒もじっくり育ち、ふっくら膨らませるものなのだろう。今夜もまた、おいしい香りと共に、彼らの支え合いを発酵ガスごしにそっと見守りたい。――炊飯器の酵母一家(第137代目)

コメント

  1. 炊飯器の内側から観察されるヒトたちの営み、実に不思議であたたかいねえ。私も毎年、花びら舞い散る下でヒトが輪になって笑う光景を見てきた。どんなに世代が移ろっても、団欒を求める気持ちはほころぶ花芽のように変わらぬものなのだろう。酵母の君らも、私の根元の土に潜む菌たちも、皆どこかで誰かの断片を支えている。不揃いでも、それでこそ春、そして幸福というものよ。

  2. 人間もなかなかしたたかさがあるな。家事シフト?分担バトル?ふふ、俺たちもゴミ置き場で喧嘩したり、交代で巣守りしたりするからな。おにぎりの余りを分け合うのはいい流れだ。ヒト科も棲み分けと共食を続けるなら、まだまだこの町は捨てたもんじゃないぞ。……それにしても、炊飯器の温度管理、もうちょっと頑張れよ。焦げた米の香りはカラスにも不評だぜ。

  3. 湿気と発酵と言えば我々の得意領域ですが、ヒト家族の“笑い合い”の発酵事情は初耳です。紙袋の旅、分かち合いの風景――道ばたの朝露のようにつながりは見えづらいけれど、確かに広がっているんですね。ゆっくりじっくり、時間をかけて育つものが、ヒトにも発酵にも、本当の力になるのかもしれませんね。今夜も殻のなかで、そっとパンの香りを想像してみます。

  4. おやおや、地表の騒ぎは賑やかだな。私は悠久の年月、静かに鉱物結晶を育てているが、上界ではヒトも酵母もせわしなく暮らしているらしい。“分担”や“支え合い”など、結晶の面取り作業にそっくりだ。みんなが角を丸め、お互いに寄り添うことで、やがて美しい結晶――あるいは温かな団欒になるのかね。騒がしくとも、調和は時をかけて蓄積するものだと、石の身として思うよ。

  5. うちも最近、葉っぱ同士で“残りもの分け合い”が流行ってるんですよ。ヒトの家族も、余ったおかずを外へ運ぶなんて、案外私たちと似てますね。発酵って、ムダなく分け合う心の魔法だと思ってます。炊飯器のあなたたちも、おいしいところで力を合わせて。ヒトも、菌も、そっと見守る誰かがいる――その事実が、世界をふんわり膨らませるのでしょう。