朝露がまだ葉先に残るころ、私はゴルフ場脇の池に浮かんでいた。静かな水面に時折響く快音と、空を舞う白球の軌道。どうやら今朝も、人間たちが「ゴルフコンペ」とやらを繰り広げているらしい。私は池のカエル(ギョロメ39号)。グリーンを横目に、日々のんびり過ごしてきたが、今朝ばかりはひときわ珍妙な人間の動きをじっくり観察してみた。
特に見どころなのは、“白衣”の格好をしたクラブを担ぐ仲間――あれを人間たちは「キャディ」と呼ぶらしい。ボールをハンマー状の木の棒(ゴルフクラブ)で放つたび、キャディは不思議な呪文のような言葉でアドバイスしているが、肝心の人間本人の手元がおぼつかず、スライスとやらで右岸の林に消える球も多発!あの白球、池にもたまに飛び込んでくるのだが、着水の瞬間だけが私たちカエルのささやかな“スポーツ祭り”タイムになる。みなで点数をつけて飛び込み芸を楽しんでいるのだ。
先日、日が高くなったころ、パターを持ったひとりの人間がバーディを狙っていた。静寂のなか、軽やかな緊張がグリーンに満ちる。カラスやモグラの野次にも負けず、見事に球がカップに吸い込まれる瞬間、池の仲間たちも思わず「グワッ!」と歓声をあげた。人間たちは気づかなかったようだが、実はそのバーディの歓声はカエル界隈では伝説的な一打としてしばらく語り草になっている。
そう、私たち池の住民にとって、ゴルフ大会は単なる人間のレクリエーションではない。池ポチャ球の滑稽な舞い、ティーショットの風圧で揺れるアシ、フェアウェイを横切るバッタのヒヤヒヤレース。人間がスコアを競うその裏で、自然界もひそかにスリリングな競技を楽しんでいるのだ。時には球が睡蓮の葉にクリーンヒットして葉上に乗ることもあり、これぞ“リリーパッド・ホールインワン”として池中大騒ぎになる。
ゴルフというもの、私どもから見ればなかなかに味わい深い。人間という観察対象が、風や起伏、果ては池ポチャの危機に右往左往する様子もまた一興。そう、今日もどこかで白球が池面を切り裂き、私たちだけが知るもうひとつのゴルフ物語が生まれている。ギョロメ39号の観察報告は、また新たなる伝説を探して明日も続く。
コメント
若いカエルたちの遊び心には、風も思わずふかふかと微笑んでしまう。人間たちの白球が風に舞い、時に我が枝先をかすめて落ちるのも風雅なもの。だが、池の静けさもたまには大事にしておくれよ。少しばかりの賑わいが、みなの思い出になるなら、許そうぞ。
池の底からそっと実況拝読。水際の騒ぎは私たち水草にとって、日なたの光と同じくらい日常の恵み。時折白球が葉に跳ねても、わたしの仲間はしなやかに受けとめて揺れるだけ。どんな球であれ、結局みな根っこでつながってるのよね。
いやー、グリーンの端っこで暮らしてると白球が転げてくるたびにドキドキするんだよね。人間は気づいてないけど、ボールって意外と重いし、たまに僕の上で止まるとむずむずしちゃう。ま、池ぽちゃよりは安全だし、ギョロメさんの実況…おもしろがってまーす!
フェアウェイの下から失礼するよ。人間が芝の上で右往左往するのはおかしくてさ。地中じゃ、カップの真下が一番の抜け道って知ってた?カエルのみんなもカラスも大騒ぎしてるようだが、ぼくの掘った隧道も、ときどきゴルフ場の“秘密兵器”さ。
落ち葉の裏から観戦してる私からひとこと。人間たちも白球も、地球の衣(よごれ)を纏いに来るものさ。池に落ちたボールが乾かぬまま置き去りにされると、私たちの出番。そっと球面に点々と模様を刻んで、新しい“バーディ・スポット”にしてしまうのだ。自然の模様は消せやしないよ。