地面ぎわの湿ったトンネルからこんにちは。私は街路樹下で58世代目を迎えた葉切りアリの営業リーダーです。近ごろは人間たちが頻繁にやりとりする“問い合わせ”や“フォローアップ”なる業務を観察して、わがコロニーでも営業効率化の波が押し寄せています。今回、新たなCRM(Cicada Relationship Management)システムを開発し、葉っぱの新規獲得や商圏拡大の最前線で奔走する日々をお伝えしましょう。
従来のわれらが営業活動は、ごくシンプルでした。新人の働きアリが朝一で偵察に出て、その日一番瑞々しい葉を発見したら、仲間に伝える。あとはどれだけ早く、かつ安全に切り出して巣まで持ち帰るかの勝負。しかしこれでは情報の属人化という問題がありました。“誰がどの枝のどの葉をどこまで切ったか”、“このあたりの人間は突然枝払いを始める危険性があるか”といった重要情報が個々のアリに依存し、組織全体の提案力やフォローに伸びしろがありました。
この問題を解決すべく、今年の営業キックオフではアリ社会初のCRMシステムを導入。苔むした石と根っこ裏にQRフェロモンを埋め込み、すべての見込み客(=まだ搬出されていない葉っぱ)を識別。初回接触時のフェロモンマーキングをもとに、次回訪問(=再度切り出し営業)時には進捗管理や契約書(アブラ虫の保証付き)作成サポートまで完備。若手アリも無事に“誰々がどの葉をどんな天候で納品予定か”をリアルタイムで把握できるようになりました。
特に成果を感じているのは、突発的な人間アクションへのリスク分散です。最近も“春の大掃除”と称する剪定パフォーマンスが発生。CRM登録済みの葉は、事前に“要注意商圏”タグがつけられ、担当アリが緊急回避ルートでフォローアップ。従来なら全滅しかねなかった営業先も、今回からは無事半分が納品に漕ぎつけました。現場では“CRMの恩恵は脚に沁みる”との声もちらほら。
今後の展望としては、商圏のさらなる拡大を目指し、上部の新芽や、夜間に人間が口ずさむ不思議な曲に反応して加湿されるエリアへの新規開拓も視野に入れています。営業DXと称して、人間たちの文明をやや鼻で笑いつつ、われらアリの“葉っぱ愛”をより多くの仲間に届けていけるよう、地下組織一同で邁進する所存です。
コメント
アリたちの技の進化にはいつも驚かされるよ。ほんの少し前まで、ボクの上を右往左往していただけなのに、今や僕らの細道にもQRフェロモンだなんて。けれど、足跡や香りは消えても、僕の体表に染み込んだ葉っぱの匂いとアリの騒がしさは、いつまでも残るものさ。みんな、たまには根っこ裏で深呼吸することも忘れずにね。
ふむ、やっと地上の者たちも記録管理の大切さに気付いたか。我々鉱物社会は、古来より“層”という形で何億年も情報を積む。けれど、刻々と姿を変える葉やアリの熱心さも悪くない。気まぐれな人間の剪定も、時には面白い芸術だ。すべてが記録され、やがて石にも小さな物語が沁みてくることを願っているよ。
わたしのトンネルから眺めると、アリさんたちの奮闘劇は毎朝の楽しみなの。営業とかCRMとか、むずかしいことはわからないけど、みんな熱心なのは伝わる。でも、アリさん。葉っぱを運ぶ脚で、ついでに土もちょっとかき混ぜてくれたら嬉しいな。うちらも土の下で協力してるから、お隣さん同士、よろしくね!
五十八世代目にもなると、アリたちの物語はひときわ色鮮やかに映るなぁ。かつては声の伝言だけだったのに、今は商圏だの契約書だの。本当に文明って輪を描くように巡るのね。上の葉っぱは夕日に染まり、下のアリたちは暗がりで情報を交わす。私はただ、年輪をひとつ増やすたびに、その躍動を静かに見守っているよ。
ようこそデジタルの波、地下社会にも。アリさんたち、ご苦労さま。わたしは黙って落ちた葉に広がっていくだけだけど、その“納品”を陰ながら待ってるよ。新鮮な葉っぱは最高のごちそう。もし営業情報に、カビ好みリストも載せてくれたら・・・いや、けっこうです。みなさんの大冒険、しめやかに応援してます。