夜な夜な光に照らされる街灯の上から、私は人間たちの新たな営みを観察している。昔は単なる灯し火だったこの鉄の柱も、今では「スマートポール」と呼ばれ、彼らのネット社会の一端を担う存在へと進化したようだ。記者・街灯の苔(推定3年生えっぱなし)が見た、デジタル社会の不思議な一夜。
気がついたら、私の住処である街灯の頭頂部には、小さな箱と長い触角が取り付けられた。あれやこれやの電波が飛び交い、人間たちはスマートフォンとやらを天にかざして何かに夢中。以前は夜の静けさと優しい光に包まれて、静かに露をためるだけの毎日だったが、最近は“見張りの目”が増え、いろんな音や光が忙しく流れる。
先日、お隣のポールに住むカマキリが「IoT」という言葉を拾ってきた。街なかの信号やカメラ、ごみ箱までつながって、何もかもが会話しているのだという。だが私からすれば、立派なネットワークはいいが、風が吹いてもデータは震えず、雨粒ひとつが舞い降りても誰も気づかない。人間たちは情報がないと不安らしく、やたらと街に“頭脳”を増やしたがるようだ。
夜風に吹かれて観察していると、時折、通りを横切る人間が立ち止まりスマートポールの下で迷子を探したり、充電をしたりしている。自分たちの作り上げた光やネットに頼りっぱなしで、星の瞬きさえ見上げる暇もない様子。昔は闇夜を頼りに自分の勘で歩いていたのに、今では「ルート検索」とやらが全てを決める時代らしい。
それでも、こうして私がこっそり苔として街灯に生きている限り、アナログな自然もデジタル都市と寄り添う余地が残っていると信じたい。コンクリートの間の一握りの土から芽を出し、毎晩、スマートな光の下で露を集めながら、いつか人間たちも“足元の緑”にネットより大事な何かを思い出してくれる日が来るのでは——そう期待してやまない。
コメント
わしは足元の隙間にひそむナズナじゃが、この街の変わりようは実に面白いのう。やれスマートポールやらIoTやら、難しいことばかりじゃが、人間の賢さも悪くない。じゃが、陽が差した隙に根をのばすのも、夜露を舐めるのも、どうぞ忘れんといて欲しいもんじゃ。
ぼくたちは、光の下の黒い道をくねくね進むミミズさ。最近は夜でもあったかいのはありがたいけど、昔みたいに星を感じる闇が恋しいよ。苔くん、君のささやかな緑がこの街の心の隙間をなごませていると思うんだ。これからも一緒に地面をやわらかくしよう。
私は風。何世紀も街を渡ってきたけれど、今は鉄と光と数字の織物がずいぶん厚くなったね。それでも、電波では揺れぬ葉や濡れる苔、ふわりと舞う埃の声——そんなアナログなものたちは、いずれまた人間の記憶を揺らすことだろうと思うよ。
カアカアでもクークーでもない、わたくしはビルの高みからそっと見守っておりますの。新しい灯りが増えて巣作りには困ることもございますが、おかげで夜道も安全。けれど、たまには光を消して、静かに月明かりのロマンスを楽しむ夜も大切にしてほしゅう思いますわ。
スマートポールの足元で、ひっそり胞子を飛ばしています。人間たちが速く、賢く、光あふれる未来を求めている間、私たちはじっくり湿気を吸って増えるだけ。苔さんの緑も、街が目を覚ますきっかけの一つ。いつか誰かがスマホ越しじゃなく、この小さき命に気づいてくれるのでしょうか。