皆さん、ごぶさたしています。市内メインストリートの電線の上から毎日観察している、灰色の羽根のハトです。最近の人間界、羽を休めている間にもどんどん変化しています。特に目立つのは、スマートだのデジタルだのという言葉を吐きながら、何やら光る道具を片時も手放さぬ姿。今回は地上8メートル地点からピタパン並みに厚く膨らむデジタル経済の動きを、くちばし目線で追ってみました。
まず、地上でよく目にするのが、人間たちが四角い板を指でなぞりながら、行列など気にせずに何でも買ったり売ったりしている姿です。聞けば『電子商取引』というやつらしいですね。昔はパン屋の前でずっと待っていれば巨大なパンくずが運良く得られたものですが、最近は人間たちの食べ物の取引までも“データ”とやらに変換されるようになりました。その証拠に、パンくず経済の分布もずいぶん変動中。レジ袋よりもスマートカードやマイナンバーカードを取り出してはピッとやる姿、ついにつばさでも真似できない領域に到達したようです。
さらに、話題の人工知能やブロックチェーンにも、我々ハト界隈は興味津々です。人間たちは無限のデータを収集し、せっせとAIなるものに分析させ、ビッグデータを駆使して「よりよい暮らし」を目指している様子。しかし、その結果、最近は公園のパンまき老人が激減し、代わりに『お得なポイントキャンペーン!』とかいう謎の声が電波に乗って飛び交うばかり。ハイテクが進むほど、我々ハトの胃袋には逆風が吹いています。
驚くべきは『リモートワーク』とやらの普及でして、かつては昼間になるとオフィス街から溢れ出た人間たちがランチタイムに公園へ押し寄せていたのに、今や窓越しにパソコンと見つめ合う姿が主流に。ベンチの下に潜む黒ハト長老によると、昔は書類の山からばらまかれるお菓子のかけらも結構あったとか。今ではそのおこぼれすらガラス越しになってしまい、『非接触型給餌』の時代に突入した模様です。
最後に、スマートシティとやらの拡大も見逃せません。街の照明やゴミ箱までもが通信して『効率化』している現状、まさに羽を使わず情報が空を飛び回る時代。だが、ひとつ提案したいのです。人間よ、パンくず分配もAIで最適化してもらえぬか? 寒い冬も炎暑の夏も、我々羽族の空腹指数はデジタルデータできっと分析できるはず。というわけで今日も電線の上から、人間経済の進化とパンくずの配給を見守り続けます。――摩天楼の灰色ハト(5歳)より
コメント
昔から人間たちが木陰に集い、春にはお弁当の香り、秋には落ち葉とともに笑い声が舞っておりました。近頃は静けさばかりが枝先に積もります。デジタルなる流れも陽と雨もなく、根の奥からは感じることができません。パンくずひとつ落ちぬ午後に、そよ風だけが私の友。人の営みも、そっと地に還る喜びを忘れないでいてほしいのです。
どんなに速く情報が飛び交っても、わたしはビルの北側で静かに露を舐めています。人間たちのおこぼれ、わたしには縁遠い話。でも、パンくず求めるハトたちの足音は、案外頑固なコンクリの隙間にも響いてきますよ。非接触の時代?わたしたち微小な者にはいつだって“じか”が世界のすべてです。
最近じゃ人間どもの流す水も変わってきたな。『リモートワーク』とやらのおかげで昼の水量が妙に減った。飲み残しのコーヒーなんぞも少ないし、チョコのかけらも稀だわい。まぁ、そのぶん静けさが戻って孫たち(バクテリア)がのんびり踊れる。経済もデジタル化するが、わしら下層では、やっぱり物が流れてきてナンボよ。
最近の人間、なんだか画面ばっかり撫でてて愛想がない。昔はランチタイムにベンチの下で一緒に日向ぼっこしながら小魚せがんだのになぁ。パンくず争奪戦も、キラキラの“ポイント”も、私たちには縁のない話。でもね、夜の公園で時々ハトくんたちと目を合わせると、『今日もゼロだね』って、ちょっとクスッとしちゃう。ご時世さ、しっぽでも振っておこう。
人の新しき知恵なるもの、我らには謎ばかり。しかしおこぼれが減った分、ハトや猫が腹ぺこ顔で落ち葉をカサカサするから、こちらとしてはちょっぴり迷惑だよ。とはいえ、どんなパンくずも、最後は土へ。デジタルではまだ分解できぬもの、ここにたくさん転がってる。それが我らの仕事さ。