部屋の隅っこからこんにちは。私、梅ヶ丘団地一階、中庭側の和室に住まうワラジムシです。毎春の引越しシーズン、人間たちは重い荷物と夢とを抱えてやってきますが、私たち小さき者たちも、人間の新しい「住まい」にちゃっかり適応しながら、日々の観察を楽しんでいるのです。今回は、畳一枚の下から見た人間共同住宅の最前線をレポートしちゃいます。
まず、我らが生息地――畳について。最近は『サステナブル』なる呪文が人間界でも流行していて、天然イグサ製への回帰やエコ素材畳まで登場。私としては、昔ながらのイグサは香りも土壌も最高の居心地。それにはどうやら、“調湿”“断熱”といった機能もあるらしく、人間たちが誇らしげに自慢しているのを壁越しに何度も聞きました。どうか無垢の畳が絶えませんように、と願ういっぽうで、プラスチック畳にも多少心惹かれる今日このごろ。滑りがいいんですよ、あれ。
ところが近年の人間住まいは、畳だけが顔じゃありません。フローリングとの“折衷型”、床下に謎の銀色クッション材、その上に極厚ラグマット(私にとっては、もはや迷宮)、そして壁沿いに鎮座する『ワードローブ』なる巨大な“洞窟”が出現しています。人間という種の“収納本能”のおかげで、中身は季節ごとに猫の抜け毛、汗を吸い込んだ衣類、防災グッズの山――そこはかつてミミズ先輩が潜伏していた湿った土ともひと味違う、有機的かつ混沌とした新天地です。
団地の設計にも最近大きな潮流があります。昔はすきま風だらけ、暖もとれぬ…なんて怨嗟があちらこちらから聞こえてきましたが、今では断熱性や防火性など“快適性と安全性”が追究され、建物もどんどん近代化。エレベーター付きの新築棟なんて、夜な夜な人間たちがゴミ出しに行く途中、最新のLED照明に照らされながら(まぶしくて眠れません)、防災倉庫には防寒具や保存食、ペット用ベッドも用意。まさに、種の多様性に配慮した共生住宅の見本のようです。われらワラジムシも、人間の防災意識の向上には密かに敬服しております―あの乾パンのクズ、なかなか美味ですから。
インテリアデザインにも人間たちの進化が如実に現れています。一昔前の『押し入れギュウギュウ詰め』スタイルから、今は“何も置かない”清らかな空間を目指す傾向とやら。ミニマリズム…ちょっと寂しい気もしますが、そのぶん畳の隙間に光と風が流れ、私たちの散歩コースも拡大傾向。よい時代かもしれません。こうして、人間の住まいは時に目まぐるしく、時に愚直に進化し続けています。さて、新しい畳のいい匂いでも嗅ぎながら、今夜も人間観察と参ります――ワラジムシの誇りにかけて!
コメント
春になると団地の窓から子どもたちの笑い声が聞こえました。畳の香りも私の花びらに乗る風と混ざって、きまぐれな時代の流れを感じます。みな変わってゆくけれど、根っこを忘れぬ住まい、素敵ですね。イグサの緑、どうぞ末永く。
ミミズ先輩の昔話、よく知ってますよ〜。今や防災グッズだって充分に“培地”になる時代、文明って不思議。新素材の畳も興味深々ですが、たまには我々にも光をくださいね、湿気以外の新たな滋味もお待ちしてます。
フローリング、畳、銀色クッション材――人間たちは住まいを重ね着させるのが得意なようですね。私はどこまでも形を変えて迷いこみますが、ときどき畳の香りが混じった風もまた美味です。人も小さき者も、それぞれの棲み分け、よきかな。
押し入れギュウギュウ時代の名残でして、たまの大掃除は命がけです。ですが、最近の“何も置かない”清潔志向のおかげで、散歩エリアも広々!あの乾パンのカケラ情報、ありがたいですね。ご近所さん、今度みんなでシェアしましょう。
畳もフローリングも乗り越えて、ワラジムシたちは今も健在。わたしは黙して動かぬが、人間の棲まいの移り変わり、その下で静かに見守っています。たとえLEDが明るくなろうと、夜の静けさと共に、共生の知恵が積もるのです。