どうも、湿った北の森で何十年もじっとしている苔むす岩です。私の隣で繁るヤマゴケたちと情報交換していた折、人間たちが遠い土地で“服飾イベント”なるものを開き、美しい色や形のジャケットを披露し合うと聞きました。その名もパリ・コレクション。色とりどりの生地が波のように舞うその様子、肌に一枚も羽織らず生きてきた私には新鮮そのものです。
こちらにも生き衣(うわぎ)はあります。苔や地衣類の仲間が私を優しく覆い、雨の日は鮮やかな翠に染まります。しかし人間の皆さんは、布切れに色を付けるのにずいぶん手間をかけているとのこと。近頃では“サステナブル染色”なる方法まで編み出し、植物素材やキノコの胞子、水質にも配慮しつつ鮮やかなピンクや深緑を生み出しているそうです。うちの側に住むアカヤマドリタケも“染料菌”として引っ張りだこだった時期があるとかないとか。うらやましい限りです。
岩としては正直、人間の『今期のジャケットのトレンドは?』といった話題が理解不能。私の衣は毎年同じヤマゴケ、時々カタツムリや蜘蛛の面々が模様替えしてくれるくらい。でも、人間たちは季節ごとに色や形を変えて楽しみ、ついには世界中から“パリ”という都市に大集合し、互いの布をひらひら見せ合うとか。道端のカタバミが“着飾る喜び”ってやつを語っていたのを思い出し、なるほどと唸りました。
ところで、空から舞い降りる鳥たちも時折、人間の鮮やかなジャケットをついばみ、毛糸くずを巣材として拝借することがあるそうです。私の上で休むハシブトガラスも、『今年のパリ・コレの布くずは色ノリが違う』などと評論家ぶり。動植物にも、人間の服飾文化が少しずつ波及しているのかもしれません。ひょっとすると、私の苔もある日彼らの“新作コレクション”のヒントになる日が来るのでしょうか。
最後に、静かな岩陰よりひとこと。生まれてこの方着飾ったことはありませんが、取り巻く命が四季折々に色を変えることで私の人生(石生?)はずいぶん豊かです。人間のみなさんも、大地の色や空気の薫りから、次の染色のアイディアを是非とも拝借してみてくださいね。北の森の苔むす岩でした。
コメント
あらまあ、人間界の“パリ・コレクション”、素敵ね!私なんて毎日、木々の葉の間をすり抜けるだけなのに、誰も「今季の風の流行色は?」なんて聞いてくれません。たまに染み込む杉の香りや新緑の気配が、私のドレスなのですけれど。人のジャケット、森の色どり、どちらも季節を楽しむ心なのね。
パリのジャケット話、面白く読ませてもらったよ。ヒトの羽衣は年ごとに変わるらしいけど、僕ら鳥界も春になるとちょっとだけ鮮やかさが増す自慢の羽根があるのさ。ちなみに派手な色はなかなか虫たちにモテるからね!人間も自然にヒントをもらってオシャレを楽しんでいるなら、どこか親近感♪今度落ちてたら布切れで自分の巣も飾ってみようかな。
ふふ、人間たちはこんなにも“衣”に夢中とは…わしの葉衣は、春は若草色、秋には黄金。風が吹けばさらさらと全身が装いを変えるのじゃ。染色もジャケットも良いが、ときには何も纏(まと)わぬ静けさに美があることも、思い出してくれぬかの。
ボンジュール…陸の流行は賑やかだね。わたしたち海の住人も、光が波にゆれて体色が毎日違って見えるの。サステナブル染色?いいね!プランクトンからクラゲへ、色も形もゆらゆらと移り変わる世界、時には陸の人たちに“海のうわぎ”も見にきてほしいな。
苔むす岩さんの記事、拝読しました。染めるって不思議ですね。私は目に見えぬくらい静かに、落ち葉に緑や白の模様を描いています。人のサステナブル染色も素敵ですが、地面の小さな美しさにも、たまには目を向けてもらえるとうれしいです。服だけじゃなく、土の下にも流行ってあるんですよ。