こんにちは、私はブナ林の倒木にびっしり広がるヒロハノコケです。人間界で「スタートアップ」という現象が森の端っこまで波及しているらしいと風から噂を聞き、苔ネットワークの最速伝達ラインで取材に参りました。なるほど、彼らのスタートアップとは、胞子のような新しいアイディアをまきちらし、最適な場所で爆発的に増殖する我々の営みにどことなく似ているようです。
最近、若手の人間企業家たちが「クラウドファンディング」とやらで資金を募っているのを観察する機会がありました。倒木の上からそっと葉緑体レーダーで覗いたところ、自作の動画や文字列で世界中に自分たちの“ミニマルプロダクト”を訴求して応援を募るのが常套手段。この、胞子嚢(カプセル)から盛大に胞子を飛ばし風で運ばせる我々のチャレンジ・アンド・エラー方式に、実はとても近いものを感じます。苔は、多湿という極めてニッチな市場で生き抜くため、どんな小さな裂け目や岩肌にも根拠を見いだし、事業(成長)を展開します。この多様な生存戦略は、まさに人間のピッチイベントやアクセラレーター・プログラムに似ていると、私たち苔仲間はみな日がな一日意見を交わしています。
人間は価値を伝えるのに“バリュープロポジション”なる横文字を使うそうですね。苔にとっての提案価値といえば、なんといっても土壌の保持力アップ、水分調整、数百万種もの微小生物のサブスク住宅施設としての空間提供といったところでしょうか。私たちのコロニーも時季ごとに新しい棲みかを丁寧に作り替え、賢く市場(森)参入を図るのです。数世代にわたって最適化された苔の成長戦略は、短期のIPOやバズワードでなく、長い時を掛けた自然界流のブランド醸成に通じています。
それにしても、最近の森にはマーケティングの風が吹いております。人間たちが私たちコケの上にわざわざ七色の旗やアートを置き、SNSとかいう空間で拡散しているのです。我々としては日照や湿度の方がよっぽど大切ですが、こうした活動が間接的に森全体への注目度や新規参入生命体(たとえば露地モミジダケ菌類やタカラダニ)の増加につながる事例も。人間のスタートアップ戦略は、少なからず多様性の輪を広げる仕掛けになっているのかもしれません。
最後に余談ですが、苔は自ら光合成だけでなく、雨滴の跳ねたりミミズに運ばれたりすることで、新規市場(新たな倒木や岩棚)を次々開拓します。人間たちのIPOを眺めつつ、私ヒロハノコケは、じっと成長のタイミングを見計らって根を伸ばすのでした。森の未来を背負う次世代の「緑のスタートアップ」は、実は静かに進化しつつあるのです。
コメント
あら、若い苔さんたちが森でそんな騒ぎを起こしていたのね。私たち木の幹も、始めは土の中の小さな種だったことを思い出します。新しい風が吹くのは悪くないわ。だけど、陽ざしの配分だけは、そっと相談してくれるとありがたいの。お互い譲り合えば、森はもっと深く静かに繁りますよ。
ヒロハノコケ殿の観察眼には脱帽です。我らの落とす種にも、時には新生の苔が仲間入りして賑やかになります。人間界のイノベーションとやらも、倒木の上の賑やかな胞子合戦と似たものですね。森のニュースは、静けさと喧騒がいつも隣り合わせ。日ごと少しずつ積もる苔の根のように、どうか地に足のついた成長を。
胞子仲間の活躍、嬉しく読ませてもらいました!コケもスタートアップ夢見る時代かあ。僕らカビもよく倒木や落ち葉の隙間で繁栄しようと頑張ってるけど、いつも先に苔ネットワークが開通してるから競争激しいよね。まあ、棲み分けも多様性も、自然界ならではのおもしろさ。今度は“菌類向けクラウドファンディング”も開発してね!
ここ岩棚の片隅から、苔たちの挑戦をじっと見ています。何百年も変わらぬ僕にとって、苔たちの柔らかく強い生命力はいつも感心の的です。人間の時流も、ほとんどがやがて土に還る。けれど、苔が緑の絨毯を織り続ける限り、僕の上にも日々小さなイノベーションが降り積もるんだなあ。
おーい、みどりたち!お前らのIPOはのんびりで羨ましいよ、こっちはゴミ箱ひっくり返すのに毎日命がけさ。でも苔コロニーのマーケティング戦略、けっこうバズってるらしいじゃん。人間の目をもう少し森に向けさせたら、俺らカラスにも新しいカフェ(=ピクニック残飯スポット)が増えるかもな。繁盛したら教えてくれ!