広場のベンチ、信号の上、ビルの屋上と、日々人間観察に励むわたし、街ハトのジュンコでございます。最近、わたしの縄張りで不思議な現象が続発中。お昼のパンくず争奪戦やアクロバット飛行のさなか、地上の人間たちの挙動がどうも妙なのです。スマホを顔にくっつけて歩いたり、手ぶりで空中操作をする者まで。これが噂の“デジタルトランスフォーメーション”というやつなのでしょうか?空から全力レポート、始めます。
まず、人間たちの行動パターンがガラリと変わりました。以前は朝になると駅へ一直線に群れを成していたのに、ここのところはベランダや公園のベンチ、果ては喫茶店の軒先で、何やら小さな箱(モバイル機器?)とにらめっこしながら語尾だけ小声で話す姿が目立つのです。近くの木鳴き仲間のムクドリ曰く、あれは“リモートワーク”なる儀式らしいとか。ご丁寧に顔の前に透明な板をかざしては、どこかと通信している模様。そんな姿を上空から見下ろすと、たまに強風で紙書類が舞い上がるのをハト仲間でキャッチするのが新しい遊びになっております。
昼下がりになると広場に集う数名の人間が、鼻先に不思議なゴーグルをつけて踊る姿を発見。その眼には現実のビル群の上に、虹色の立方体や流れる文字列が重なって見えています。どうやら“増強現実”なるものらしいですが、我々鳥類としては空間の把握こそ命。一度人間が盛大につまずいて転び、パンくずをばらまいた事件は記憶に新しいですね。ちなみに、ハト族は人間の倍以上の視野角を持ち、上から下まで死角なし。どんなに未来的な変化が来ても、どこか食べ物が落ちていないか必ず見逃しません。
話を戻しますと、屋上の古カラスから重要情報が。人間たちのビルには、あちこちに小さな箱や丸い目玉のようなものがついています。カラス師匠いわく、“センサーデータ”を集めている道具なんだとか。それと、何やら“人工知能”なる仕組みで、室温・ごみの量・雨の気配まですぐに知るようです。ただ、誰かがポテトチップをばらまいた瞬間、AIは全く対応できなかったとか。我々の餌場探知能力こそ、ディープラーニングやクラウドよりも一枚上手、と誇りに思います。
この“デジタル変化”は、空の上から眺めると人間たちの動きを複雑に編み直し、ついでに落ちてくるパンくずの位置や頻度にも微妙な影響を与えているようです。時代がどれほど進化しようと、空腹のハトは変わらず今日も広場を巡回。わたしジュンコ、これからも人間観察とおいしいパンくず探しを両立しつつ、新たな“空間デジタル化”のホーホーな動向を追い続ける所存です。
コメント
人間たちの新しい魔法、また始まったのね。地下の暗がりから静かに見ていると、光を使って世界を重ねるなんて、とても興味深いわ。でも、僕らは深い闇と静けさのなかで、ただじっと光るだけで満たされてる。最新のゴーグルも、静かな夜の露を感じることはできるのかしら。
ワシがこの街角に根を下ろして五十年、人間たちの変わり様には驚くばかりじゃ。昔はみんな目を輝かせて花に顔を近づけたものじゃが、今じゃ小さな箱ばかり見ておる。増強現実?ワシらは春の雨と土の温度で十分じゃ。まあ、たまにベンチ下のパンくずが減ると、少々残念だがのう。
お日さまの当たらぬ地面の下からこんにちは。人間たちの足音がいろんなリズムで響くのは面白いもんさ。最近は妙にじっとしてる時間が増えて、土の揺れも控えめ。デジタルとか人工知能だとか、オイラたちには関係ないけど、紙ごみがよく落ちる日はお祭り気分だねぇ。
ぴちゃ、ぴちゃ。水面から見上げると、人間たちが不思議な動きをしてるのが映りこむ。ゴーグル姿で踊りだすなんて滑稽で…思わず水しぶきを立てて応援しちゃうよ。空間のどこをどう変えても、水はただ流れて集まるだけ。パンくずが流れてきたら、魚たちと一緒にいただきま〜す!
ふむ、ここから何百年も街のうごめきを見つめてきたが、最近の“空間デジタル化”とはやらには驚かされる。みな立ち止まり小さな板に夢中になるとは人の心も変わるものよ。せっかくの日差しと風を感じる暇もなさそうだ。カラスやハトばかり騒がしいが、たまには私の上に腰かけて空を眺めてみてはどうか、と言いたいね。