サンゴ礁特派員が見た「人間たちのウォータースポーツ選手権」珍競技と海底の叫び

サンゴ礁の上から水上スポーツを楽しむ人々のシルエットが透けて見える水中写真。 ウォータースポーツ
サンゴ礁の視点で見たウォータースポーツ大会の賑やかな一幕。

波のリズムに合わせて皆さんごきげんよう。私は熱帯海域のサンゴ礁で生きるミドリイシ・サンゴ、けっこう長生きしているおかげで、何百年分もの浅瀬ウォータースポーツ観察記録を持っています。今回は最近開催された、人間たちの多様なウォータースポーツ大会の様子を、海底からレポートします。

大会当日、早朝から頭上の水面がばしゃばしゃと騒がしい。ヨットやクリアカヤック、パドルボードに乗った人間たちがひしめき合い、透明な船底ごしにこちらを指差して「うわーサンゴだ!」と浅瀬を行ったり来たり。われらサンゴの親戚・イソギンチャクも、カクレクマノミたちと一緒にきょろきょろしていました。なかでも注目だったのは、ウェイクサーフィン種目。巨大な人工波に乗り、大声を上げて絶妙なバランス芸を見せる選手たち。もしや人間にも、サンゴのように長らく一つところにじっとできない性分が隠れているのかもしれません。

午後からは、スキューバ機材を装着した人間がずらずらと潜降。私たちサンゴのすぐそばまで来て、防水カメラで夢中になっていました。そこで誕生した新競技——『サンゴ・シャドウイング』。選手は始め、色とりどりのサンゴ群落の上をミラクルなスキルで移動、まるで巨大なウミガメを追うように私の枝先を模写。私たちは、光合成しながら藻類と共生している体質です。大量のフラッシュ撮影に若干の緊張を覚えましたが、おかげで昼寝中のヨコエビ君やヒトデさんも大写し。今や浅瀬の仲間たちの間で「密着取材スペシャル」の話題で持ち切りです。

その一方、水面上ではラフティング競技が熱狂。数人乗りのボートが、サンゴのコロニーをギリギリ避けて疾走するたび、枝の先端がヒヤリ。例年よりも注意深いパドルさばきで、海底住民の我らに被害なし。こうして観戦していると、人間たちがどんなにスポーツで競い合っても、われら海の生き物の繊細な暮らしに気を配る意識もじわじわ芽生えてきているのだな、と、サンゴの触手で感じました。

最後に。私たちミドリイシは一度根付いたら動かないけれど、だからこそ、未来の海と遊びが続くための「静かな観客」として、ときに人間たち水遊びの行方をじっと見守りつつ、万が一の際は大集合して“警告色”を放つこともお忘れなく。サンゴ礁の暮らしは今日も平常運行。さて、次はどんな奇想天外な人間たちの競技が海の上で繰り広げられるのか、楽しみに枝を伸ばして待っています。

コメント

  1. やれやれ、上では何やら祭り騒ぎだったんだな。ぼくは普段、人間の影が落ちるだけでピタリと息をひそめるけれど、今日は巧みなパドルさばきにちょっと感心。水底でフワリと舞って見守っていたよ。サンゴさん、また上の世界の出来事、教えてくれないかい?

  2. ふむ、人間たちの浮かれた様子は、遥か昔に空から落っこちてきた雨粒たちを思い出させるね。私がここに座して数千年、流れも変われば、騒ぎも変わる。それでもサンゴたちの根気と美しさは、どんな嵐の後にも残る。海を遊ぶ者も、守る者も、そのことをどうぞ忘れずに。

  3. 波間からなにやら眩しくカメラがこちらを見ていたけど、私なんて小さくてピントが合わなかったかしら?人間たち、時にはそっと足を止めて私たち潮だまりの仲間も覗いてほしいなぁ。スポーツも大事だけど、静けさの中のきらめきも見逃さないでね。

  4. ぼくはボートの底から、みんなの歓声を振動で感じていたよ。それにしても、人間たちの進化した“ひれ”にはびっくり!けれど、どこへ行くにも私たちの家が揺れるから、ちょっぴり複雑な気持ちさ。サンゴのお兄さんたち、また今度は上からだけじゃなく間近で写真撮ってほしいな。

  5. フラッシュの眩しさで一瞬、胞子が目を回しそうになったけど…人間たちの動きは、私には季節転がす大きな波みたい。誰もが主役になれる場所を探してるのかもね。私たちは陽も当たらぬところで静かに消えては生まれるだけ。ときどき思うの、人間たちも止まって、ゆっくり朽ちる時間があればいいのにって。