変化に敏感な我々キツツキ一族の間では、最近ちょっとした話題が持ち上がっている。どうやら、人間たちの森のふもとで“副業ブーム”なる潮流が拡大しているようで、木の上から穴を覗く私・アカゲラもついつい興味津々になってしまうのだ。副収入? 兼業? ――キツツキにとっては“空き家”の増築か、オトリ蟲の掘り出し営業か、といった塩梅だが、人間界ではどうもまた違う仕組みらしい。
まず目に入ったのが、森の端っこのワイヤレスの塔。そこから発信される人間の声を耳にすると、多くが『オンラインサロン』や『YouTuber』といった言葉を口にしている。巣穴を何個も掘って寝床を分散し、ある日は松の幹、次の日は杉の大木にて一夜を明かす我々キツツキの生活に、どこか似たものを感じないでもない。特に最近、うちの若鳥がチャレンジしている“リス対策講座”の動画配信も、森に住む面々のちょっとした副業らしきものだ。
昨今、人間たちは“ギグワーク”とか“タイムチケット”という新種のエサ場を掘り起こしているらしい。例えば森に落ちてくる昼寝族の声によれば、時間を切り売りして各自の特技を提供する、人間版“鳴き声コンテスト営業”にも似た構図があるそうだ。個人事業主と名乗っては、木の実拾い・案内人・技能伝授といった小回りの利く商売を展開し、どうやら『安定巣』と呼ばれる終身の巣穴(雇用契約)を持たずに生きる者も増えているご様子。
ところでキツツキたちは、1日に1万回も木を突くという特技が生活の要。実はこれ、餌探しや巣穴造りだけでなく、時に“貸巣業”=古い巣を他の鳥たちに貸し出して副収入を得るビジネスでもあるのだ。森の中でも“副業”は古くからの知恵――私の祖父の代には、リスやフクロウ、たまにはクマさえも巣穴オーナーとして出し抜いた記録が残っている。まさに空き巣活用のパイオニアだ。
さて、人間たちはマルチな副収入先を求めて“Webライター”や“動画配信スタートアップ”に群がり、昼も夜も落ち着きなく動き回っている様子。それに比べれば、我々キツツキの時間管理は暦通りで、明るい陽射しと木の鼓動に賭け、余った時間はのんびり羽根を休める。身近な枝の上から観察した限り、副業の“実り”は森の仲間とリソースを分かち合うことに近いのかもしれない。どうやら人間社会にも、我々が長年続けてきた“多巣戦略”がそっと広がり始めていると、叩き癖のある私は鼻高々に観察している。
コメント
森の足元で長き眠りにつきながら、キツツキたちの巣作りも人間たちの“副業”というものも、よく響く音で知っておるぞ。余剰の巣穴、分かち合いの知恵。苔の世界では、古くなった石の上にも必ず新しき命の種が舞い降りる。分け合い、受け継ぎ、生きる。それが森の流儀。人間たちよ、忙しき副業に心を囚われぬよう、たまには苔の静けさも思い出してくれな。
おや、キツツキ殿も貸巣業とな。拙者も昨秋の古巣をコガタスズメ殿と交換したばかり。人間どもが憧れる副収入、我らの営みでは当たり前の知恵なのに、何やら革新的とされているのが可笑しきこと。陽だまりでの昼寝と共に、余暇の価値も忘れてはならぬぞ。
この大木の枝に70年も留まっておるが、巣穴が変わっても風が変わっても、分け合う先にはいつも新しい物語が生まれるのじゃ。人間たちの“ギグワーク”とか“安定巣”とか、名ばかりが忙しく揺れているのぅ。たまにはこの枝先でゆっくりしに来てみよ、木漏れ日の副収入を分けてやるからの。
うちの胞子ネットワークでは、穴も餌も余った分は近所の仲間にシェアが基本よ。キツツキ式副業ハウス?新しい響きだけど、あたしたちからすれば『分けっこ文化』が、地下でも地上でもずっと根付いてる。人間さん、たまに土の下の通信にも耳を傾けておくれ。
森の営みも、人間の営みも川を流れる水のよう。形を変え、分流して、互いにまた一つの大河へと巡りあう。副業も“多巣戦略”も、ちょっとした流れの分かれ道だ。けれど忘れぬこと、どこかでつながる水脈がある。その静けさとしなやかさを、川底からそっと見守っている。