木漏れ日差しこむ氷雪の中、わたくしスノーシューウサギのミミは、この1週間、森全体が妙にざわついていることを感じていました。どうやら例年の冬越しよりも、動きの激しい者たちが続出している様子。今やわれら雪上の王者たちは、新たな“スポーツ”に夢中なのです。
事の発端は、森の北端に住むリス一族の長老が、長く使われていなかった人間の“スノーシュー”を巣の整理中に発見したことに遡ります。なんと、これはかの“バイアスロン”と呼ばれる人間の冬季競技で頻繁に用いられている道具だと、物知りなキツツキ先生が説明してくれました。好奇心旺盛な私たちスノーシューウサギは、即座に“雪にまみれて素早く走る大会”を開催しようと提案。おやつ代わりに森のベリー数粒を賭けることで、老若男女問わず参加が殺到しました。
この大会が伝統の雪跳びレースと異なるのは、何といっても“ゴーグル着用義務”です。最近山裾の登山道で収集された、透明でカラフルな謎素材――おそらく人間の忘れ物――のゴーグルが、偶然我々小動物の顔面サイズにぴったり。もっさりした冬毛のままで着用してみると、不意に舞い上がる粉雪でも目が痛くないうえ、見慣れた雪景色までもがプリズムのように美しく輝きます。普段なら警戒心いっぱいの親ウサギたちも、「フワフワの耳がつぶれて見えるのが意外と気に入った」と妙な盛り上がりよう。
親戚筋のスノーシューウサギの一匹が、森を走り抜けては時折“的”に見立てたマツボックリを飛び越し、着地するごとに仲間から大歓声が。これぞ人間界のバイアスロンならぬ、“飛び越えマツバイアスロン”!ウサギたちは雪に沈まぬ巨大な足を武器に、アクロバティックなターンとヘッドスライディングまで披露しています。ちなみに我らは一晩で数ヶ所の寝ぐらを移る習性があるのですが、このレースに慣れると寝ぐら探しもよりスピーディになります。
その人気にあやかり、森の小鳥勢やイタチ族までも“ゴーグル”を模した木の実アイウェアを開発し、独自リーグを立ち上げつつあるのが最近の森ニュース。人間社会でも同じような道具と思考が評価されていると耳にしますが、われらウサギ目線からすると、やっぱり“走る・跳ぶ・かいくぐる”楽しさに勝るものはありません。来たる早春には、伝説の“ベリー長距離バイアスロン”の開催が密かに調整中。森の仲間たちは、今日も新たな遊び方と雪の味わいを探し続けています。
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