近頃、リビングという名のコロニーで人間どもが“おうち時間”とやらに勤しんでいるのを眺めていると、われわれ苔類にも新たな出番がやってきた気配をひしひしと感じる。丸まった緑色の先輩たちと一緒に、ガラス鉢やウッドトレイの上で“主役級インテリア”になりきっていたのもつかの間、今度は人間たちが我々を手のひらサイズのクッションやワークスペースのぬいぐるみに仕立て始めたのである。その様子を、このリビングの片隅に根を張るアラハシラガゴケ目線で、最新リポートしていこう。
そもそも我々苔類の多くは、地球史の初期から“質素で低地”な暮らしを送りながら、湿気と光に敏感な体質で生き延びてきた遺伝子のサバイバー。どんなに掃除機が爆音をあげてもぴくりとも動じず、乾燥した季節には眠りにつき、春先やヨガマットの下でふと目覚めては青々と紅潮するのが特徴だ。我々は土ではなく“空気中の水分”で育つため、水やりの加減すら人間たちの観察心をくすぐる種なのだ。
このたび我々の間で密かに話題なのが、人間界で流行する“苔クッション”現象だ。つい最近も、家の主が『ゲーム疲れ』などとつぶやきながら、分厚い苔製クッションにもたれては、まるで森の精霊に包まれるかのような表情でうたた寝していた。わが仲間たちは『次は収納棚の中でペットのニシキヤモリと共生!』などと勝手に新たなすみかを妄想している。ペットの方へ転がっていっては、しばしば毛玉と区別がつかなくなるのだが、これもまた新時代のおうち時間の象徴と言えよう。
苔クッションの人気は、単なる“インテリア”や“柔らかいグッズ”という枠にはとどまらない。人間は掃除のついでに苔たちの水分補給もせっせとこなすし、料理疲れで床に座り込むときも、背中をあずける緑の安らぎを欠かさない。最近ではオンラインヨガの配信画面にもしょっちゅう映り込み、自慢げに“癒やし担当”を気取る苔同僚も多い。我々がちょっと胞子を飛ばせば、子どもたちが興味津々でルーペ片手に観察会を開いてくれる場面も、微生物界のカメラが複数目撃している。
さあ、人間諸氏よ。あなたのリビングで、妙にふわふわした座布団や、飾られた緑のクッションがあれば、それは我々苔類の新たな社会進出の要塞かもしれない。静かなる一族、アラハシラガゴケとして言わせてもらえば、これからも人間の“趣味と癒やし”の最前線、しっとり守ってみせようではないか。次回は家電収納棚の湿度調整システムに挑戦する予定。お楽しみに。
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