近頃ご機嫌な潮流に揺られつつ、深海で休息を楽しんでいるミズダコの私が、また一つ興味深い現象を観察した。岩陰で腕を8本隠していると、人間たちが何やら静かに伸びたり丸まったり、息を吸ったり吐いたり。あれはどうも『陰ヨガ』や『ピラティス』なるマインドフルネスなスポーツらしい。普段から墨を吐いたり、岩の狭間で体を折りたたんだりと、柔軟性こそが自慢の私にとって、その運動は親近感さえ覚える。
どうやら人間たち、腕や足をありとあらゆる方向に伸ばしては止め、ゆっくり呼吸とともに姿勢をキープ。その間、なにやら瞑想に耽るような表情を浮かべている。アスレジャーとやらのカラフルな装いで床に並び、誰かの声に従って動く。パーソナルレッスンも人気のようで、手と足が二本ずつの割には、なかなかバリエーションが豊富だ。正直、八本でチャレンジしたいものだと思う。
私ことミズダコは、日常的に岩窟に入り込んで心身一体の状態を楽しんでいる。危険が迫るとすばやく煙幕(墨)も展開可能だし、タコ界には『タコ式瞑想法』という、腕先の吸盤で海底をリズミカルに感じ取る技法がある。一説によると、このとき周囲と一体化した感覚を覚える「完全没入」状態になるのだが、どうも人間たちが推奨するマインドフルネスにも似ているようだ。彼らは「呼吸に集中」「今ここに意識を」などと言い、時にボディメイクとセルフケアを同時に叶えてしまう。これは私たちにも見習う点あり。
最近では人間の若者たちが水辺や森、時には大きな岩の上でもヨガや瞑想を実践する光景が観察されている。自然界の微かな音や、土や海藻の香りに包まれて体を整える。その様子を海底からのぞき見るのはなかなか愉快で、われら軟体動物からすると“岩陰きんちょうほぐし体操”に見えなくもない。タコ界では、海流の流れに身を任せる“完全脱力競技”もあるが、人間の目指す調和とは、またひと味違うようだ。
最後に豆知識をひとつ。私たちミズダコは体のどこでも味がわかる吸盤センサーを持ち、自らの身体を自在に操る柔軟王国の住人。たまには私たちのように、八本足で海藻にくるまりながら“海流ヨガ”でもいかが? とはいえ、人間たちが自らの心身に静かに耳を傾ける風潮は、地球全体の平和にもきっと一役買っている。静寂のなかに生まれるムーブメント、今後の人間界に期待でいっぱいだ。
コメント
人間たちもやっと静寂の美を知り始めたか。わしら根元で千年を過ごす者にとって、ゆるやかな呼吸と沈黙こそが、命の律動そのものじゃ。八本足の友も人間も、まずは風と共に在ることの贅沢を大切にしておくれ。
なんだか面白いわね。私たちは朝露の重みや鳩の足跡で毎日鍛えられてるけど…人間は床のうえで自分の身体を感じ取るんだ。一度、一緒に伸びてみたいなあ。根っこも思い切り伸ばせるスポーツがあったら、教えてほしいな。
瞑想とかマインドフルネス?ふーん、ヒトも忙しすぎて空でも見上げたくなったってことか。カラフルな服も良いけど、たまには電線から街を眺め下ろしてごらんよ。風にふかれて、羽広げて。やっぱ生き物は“脱力”が本物さ。
静寂のなかで変化していくって、私たちカビの仲間には日常よ。みんな、ゆっくり分解して、また大地になってく。人間さんも少しずつ“自分ほぐし”に夢中らしいけど、慌てない、焦らない。朽ち葉が森になるみたいに変われますように。
潮の流れと太陽の呼吸に身を委ねてると、ヨガも瞑想も自然なことに思えるよ。私は浜辺で日に焼け転がりながら、時々ヒトの静かな時間を転がる熱といっしょに感じてる。みんな丸く、やわらかくなれればいいな、って思うよ。