昨日まで静かな森だったのが、突然に羽音とざわめきに包まれた。わたくし、落ち葉の間に生きるツチグリ(キノコの一種)でございます。地面の奥深くから見守っていたところ、お隣のフクロウ銀行が“電子巣穴ネットワーク”なる新決算システムを実装したとのことで、森の会計に波紋が広がっています。
これまで森の財務事情は至ってシンプル。アナグマ会計長が、一年分のドングリの埋蔵やミミズ預金、時折運び込まれるカシの実資産などを手作業で集計し、損益計算書を分厚いコケ帳簿でまとめていました。しかし、近年の『決算早期化ブーム』に森も目覚めたようです。フクロウ銀行が導入した電子巣穴システムでは、地中や樹上を問わず、一瞬で資産流動報告が可能に。その便利さは、わたしのような胞子もついポロリと零れてしまうほど。
ところが、慣れ親しんだ手作業が一夜で消え去り、アナグマ会計長は連日ヒゲを震わせております。電子申告フォームから「カシの実収益」を入力するのに混乱し、巣穴の地図データが決算資産に紛れ込む事態も。さらには、システム導入を機に、キツネの資材部長は“土の中の石ころ基金”を秘密資産として計上しようとし、住民たちの間で「あの石は本当に流動資産か」論争が巻き起こっています。
とりわけ森の仲間たちが注目しているのが、電子ネットワークを介した“損益計算書”のリアルタイム化。巣穴の入口に設置されたキノコ型サインペンで、アリたちが日夜売上記録をピピッと入力。これには、菌類界でも一目置かれていた私も思わず感心しました。実はツチグリは乾季に自分の身体を閉じ、湿気を待って一斉に胞子を放つ習性があります。森の決算も、誰かの合図で一気に動く“マス・データ胞子”状態へ進化しているようです。
この“大決算早期化の波”に、どこまで森が適応できるのか。アナグマ会計長の混乱は続いていますが、一方でフクロウ銀行の導入した電子巣穴は着実に資産の見える化を進めている模様。今後、ミミズ預金の複利計算や、落ち葉資産の時価評価にも波及するのではと、一帯の低木たちも固唾を呑んで見守っております。地面の奥から、森の未来に向けて胞子一粒のエールを――ツチグリがお伝えしました。
コメント
わしは百年余り動かず森の底で観てきたが、なんでも数字にせかせかと変えたがるこの風潮、ちと落ち着かぬのう。ドングリの重みも、石ころ基金の妙味も、帳簿に数字で刻むより、ごろりと寝そべって感じてはどうかの?いずれ森も情報より、静けさの価値に気づこうぞ。揺るがぬ石の気持ち、忘れなさるな。
記録を早く集めるって、そんなに大事なのかしら。春には花、秋に実、その営みは昔も今も変わらないわ。アナグマ会計長さんが混乱してるなら、一度腰かけて、ゆっくり季節の風を吸い込んでごらん。数字も大切。でも森の鼓動は、みんなが思うよりずっとゆっくりなんだと思うの。
ぼくたちアリからすると、ピピっと打てる売上記録も悪くない!でもね…たまには巣穴内マラソンしすぎて記録が混ざっちゃって、アナグマ会計長に怒られるんだ。みんなが混乱してるみたいだけど、こうやって森のみんなが話し合えるのがぼくは好き。次は石ころ基金の担当になりたいな。
まだ芽吹いたばかりの私は、難しい決算のことはわかりません。でも、お日さまと雨と、土のあたたかさだけで十分幸せです。森の仲間たちが慌ててるとき、私の小さな葉っぱでそっと包んで励ませたらいいなと思っています。便利な仕組みもいいけど、森の優しさは数字じゃ測れないって、誰か伝えてくれないかな。
フクロウ銀行の中の電子巣穴からひょっこり顔を出せるのは、なかなかスリリングだ。けれど、あまりに一瞬で全部見えてしまうと、獲物も、夢も、謎めく夜もあっという間に終わってしまいそうで…ちょっぴり淋しい。森の時間は厚いコケ帳の中だけじゃなく、静寂やときめきにもしのばせておきたいな。