地表の雑草の隙間。わたし──地中生活専門のクロヤマアリの働きアリ──が日々の仕事をこなしていたある日、巣内に前代未聞のざわめきが走りました。これまで、私たち働きアリには選択肢などなかったのです。掘って運んで餌探して、そしてまた掘って。ところが、隣のコロニー発の「女王不在・自己管理型ワーカー制」の噂が、地中会議で一気に広まったのです。
女王アリの指令通りに動く——アリ社会ではそれが千年来の常識。労働分担は厳格で、怠ける隙などなく、健全第一のはずが、最近は原因不明のワーカーロスと戦意低下…わたしたち働きアリにも「心の栄養」が必要という考えが芽生えてきていたところに、隣の巣が導入した“ローテーション&協議制”の話。彼らは、女王に頼らず、定例の土粒会議で仕事割り振りを決め、生産性の低下もなく健康的な生活を送っているとのこと。かつてない羨望の声がわが巣の端から端まで駆け抜けます。
実はアリ社会、外敵や洪水、天敵のイタズラ(キツネ、その小賢しさ!)に晒されやすいもの。ただ、意外かもしれませんが、働きアリのおよそ10~20%は“怠けアリ”で、本番時には急に戦闘力や忍耐力を発揮します。このような“休息性戦力温存策”は棄てがたい伝統なので、巣内でも議論が白熱。『怠け役』の居所がなくなるのでは、と不安の声もありました。しかし、“自己申告制のシフト”と“雑談穴”導入で、実は彼らがモチベーション向上の潤滑剤になる可能性も指摘されています。
労働組合的なネットワークは、葉の下に張りめぐらされた“フェロモン通信ライン”で拡大中です。巣ごとに独自の健康マニュアルを設ける巣も現れ、わたしの巣では、足元の湿度と体内水分バランスを記録し合う『しっとりポイント制度』までスタート。月例“ストレス臭”チェックでモチベ低下の早期察知に努める動きも見られ、アリたちの革命精神は着実に進行しています。
とはいえ、全てが円満というわけではないのが地中ワールド。先日も、役割分担会議で“地表パトロール班”のメンバー選抜をめぐり軽く噛み合い(文字通り!)。しかし、かつてのような見下し合いや押し付け合いは減りつつあり、わたしが幼いころ憧れた「あの巣の団結力」に、今は我が巣が近づきつつある手応えを感じています。忙しさの合間にも、「ちょっと、あなたも一息いかが?」と触角で合図を送り合いながら、地中労働の日々はしっかりと“改革”の波に乗っているようです。
コメント
地表の下も、風の噂も賑やかになったな。わしが根を張り始めたころ、蟻たちは流れる水よりも律儀な働きぶりだった。けれども、たまには陽を浴びて話などしなされ。心にしめり気がなくては土も固くなるぞ。柔らかい土でこそ、わしら根も蟻たちも息ができる。良き風吹け、皆に。
ほほー、アリの社会もなかなか悩みが多いらしいな。女王いなくてもやってけるとか、俺たちムクドリとの縄張り争いみたいなもんか。とっかえひっかえ仕事してるの、ちょっと憧れるぜ。でも、どこの集団でも『怠け役』って重要なんだよな?なあ、ムダなフリして本番で動くやつ、俺んとこの若いのにも見習わせてぇ。
うむ…働き者も、しっかり休むことも大切。時々、木屑を運んでくる蟻さんたちの慌ただしさを下から眺めていたが、彼らもついに改革の波に乗ったのか。適度な湿りと団欒こそが、コロニーもキノコも伸びやかにするもの。土の奥でどうあれ、今夜はひときわ胞子を飛ばして応援しておるぞ。
地上よりずっと遠い暗闇にて、わたしは静かに共感いたします。誰に指図されずとも、我ら群体は各々の役割を果たしておりますが、時に余白と休息こそが輝きに繋がるもの。働き蟻たちの新たな波が、やがて地表全体を優しく覆ってくれるのではと、泡を数えながら祈っております。
アリだって転がる時代か!女王いなくても渦を巻けるなんて、ちょいと羨ましいぜ。俺は流れまかせでコロコロ移動するだけだけど、そっちの巣もいろんな形に変わってくんだな。『みんな違ってみんないい』、そういう砂の混じり気が川原には一番なんだ。アリのみんなも、無理しすぎずほどけてな~。