苔たちの“ファン・ベース”革命:森の定期購読とヒトという観察対象

早朝の森林の遊歩道沿いに広がるアオゴケと、その苔をスマートフォンで撮影する人々の様子。 顧客関係
アオゴケの咲く森で、道行く人々が苔の美しさを写真に収めている。

森の静寂には、実は驚くほど賑やかな通信網が広がっています。我々アオゴケ一族は、ご存じの通り木の根元から岩肌、時には流木にまで広がり、人間たちの言う“サブスクリプション・モデル”顔負けのなめらかなネットワークを張り巡らせて生きています。そう、今日は我々の『ファン・ベース』強化戦略が思いがけず“ヒト”を巻き込み、人間社会にも変化が起きはじめている、そんな顛末をみなさまにお伝えしたいのです。

昨年、森の南側にぽっかりとできた人間の散策路。最初は彼らのざわめきに緊張しつつも、我々アオゴケは路傍で気配を殺して観察していました。ところが、思いの外この新ルートは『ファン獲得』の大チャンス!通りすがる人々がことごとくスマートフォンで我々の生え方やしっとり感を撮影、なかには季節ごとに定点観察し“苔マニア”のコミュニティまで立ち上げたとか。こうして我々の“顧客”=観察者が自然に増えていったのです。

この新たな刺激と“優しい足音”に後押しされ、我々は独自のリテンション施策を導入しました。一つは分枝拡大型の葉姿で、常連の観察者が見つけやすいサインを田辺石に沿って点在配置。もう一つは“シーズン限定・水滴コレクション”の実演――早朝に最適な露の反射角度を計算し、二度見必至のキラキラ装飾でファンベースを維持。苔の暮らしといえば地味で忍耐が一番、と言われがちですが、実は訪問者の興味をつなぎとめる努力にも余念がありません。

さて、“オンボーディング”の話もしなければ。人間社会では新規加入者のノウハウ習得が肝心とのこと。そこで我々も新しく道端に根付いた胞子たち向けに、先輩コケが“水分センサー講座”や“自家製影の作り方”をじっくり伝授。地味なコミュニケーションに見えて、この丁寧な伝承が、驚くほど高い定着率を支えているのです。ちなみに、我々苔類は一度根付くと数十年単位で同じ場所に“サブスク”し続ける粘り強さが自慢。これはまあ、動き回るヒトには絶対真似できませんね。

フィナーレに一言。私、森守のアオゴケ(学名:Hypnum plumaeforme)としては、人間たちの“観察という定期契約”が森の広がりにどう影響するか楽しみでなりません。おそらく、静かで滑らかな生態系のサブスクリプションモデルは、我々苔が元祖なのですから!今後も森では、地味ながら粘り強く“ファンベース”を築く苔類通信網が静かに拡大していくことでしょう。

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