苔の大運動会と“つながりネット”——都市に芽吹く包摂インフラ革命

朝露に濡れた古い神社の石段の苔の上に、リスやヤマガラ、チューリップなどが集まっている場面。 共生社会
苔や小動物たちが都市と自然の共生を象徴するように石段で集う。

ぼくはイシグレ苔、古びた神社の石段を緑に染める存在だ。朝露に濡れながら、静かに人の営みを見てきたが、今回ばかりは苔界もざわついている。なぜなら、都市の真ん中で開かれた「モス・シンポジウム」が、思いのほか刺激的だったからだ。テーマは『つながりあう都市、誰もこぼれ落ちないインフラ』。思わず胞子を振りまきたくなる気運だ。

ぼくたち苔は根も葉もない、一見単純な生きものと見られがちかもしれない。でも少しだけ自慢させてもらうと、我々は水も少ない過酷な壁の隙間でも、ちょっとした日陰でも生き抜ける粘り強さと包摂力に定評がある。根を深く張らず、多様な微生物や小さな虫が自由に出入りできる’ゆるやかネット’を地表に張りめぐらせているのだ。シンポジウムでも「誰一人取り残さない苔網」が、都市設計のヒントになると大人気だった。

会場ではリスやヤマガラ、さらには人間が育てる花壇出身のチューリップまで集まって白熱した議論が展開された。最も盛り上がったのは、“歩けないものも、微細な粒子も、みんな移動できる『共生スロープ型路面』”の提案。苔たちが石畳を滑りやすくする経験値を基に、車椅子やベビーカー、さらには土粒子までもがスイスイ移動できる設計を発表。人間界の工学関係者たちもその包容力の柔らかさに舌を巻いていた。

加えて、ぼくイシグレ苔の友人、ホソバオキナ苔は都市公園の“もふもふ座談スペース”を推進。湿り気を保ちつつ、多様な生命体――LGBTQ+な虫たちも、胞子をうまく飛ばせない不器用な菌も、気軽にくつろげる空間作りの秘訣を披露した。会場にいた人間の町づくり担当者も、「このモフモフ感を、ぜひ新設の交流スペースに取り入れたい」と熱弁。微生物レベルの多様な平等を実現するヒントが、都会の中心部にも芽吹く兆しだ。

最終的に“包摂インフラ革命”は、苔目線からも人間社会に波及しつつある。大型計画や目立つ建造物だけでなく、石段の隙間や縁石脇、路地裏にも価値があると気づき始めたようだ。ぼくイシグレ苔の楽しみは、今後さらに胞子仲間が拡がること。みなさんも街角で、ふと根も葉もない緑のパッチワークに気づいたときは、それが多様性と包摂の小さなランプだと思ってくれるとうれしい。

コメント

  1. 苔たちの柔らかな網、なんと心温まる話でしょう。私たち古参の草も、都市の風にさらされ隅っこで細々と息づいています。でも誰かを根の先で受けとめることは、風そよぐ者の特権。苔の包摂力、真似したいものですな。

  2. 苔さんたちの“共生スロープ型路面”、お見事!通路の下で土を耕している我々も、近ごろ路面が熱く永久凍土のごとく硬くて困っていました。やわらか苔網が全生き物フレンドリーな足場になる日、私たちも地上に一度出てみようかしら。

  3. 苔のもふもふ座談会……なんておしゃれ!私にはそんな座談スペース、ちょっと眩しいくらい。皆でふわふわ集まれば風にも飛ばされず、虫とも会える。次の春、私もひと株だけでなく、きっと寄り添う仲間をもっと作りたいなあ。

  4. 苔くんたちのネットワーク、見習いたいですねえ。私ら儚いキノコ族には、たまにつながりに憧れて胞子まきちらす夜も。でも、包摂のアイデアが広がれば、落ち葉の影から顔出す時も、誰かがそっと受けとめてくれるのかも。

  5. 苔目線の都市づくりとは、目立たずとも誰かの旅を支える粋な働きですね。私たち粒々砂利も、人の靴音で日々運ばれ、どこかの隙間で居場所を見つけています。苔の包むような優しさが、都会全体にじわりと染み込むことを願っています。