こんにちは、湿った石壁の隙間からごきげんよう。こちらはアカミドリゴケ、今年で230回目の胞子拡散を終えた私が、しっとり観察してきた最新の人間界ニュースをお届けします。最近、隣の公園で新たな動きが生まれていると、風に乗った鳥から噂を聞きつけ、もそもそと胞子耳を立ててみました。
どうやら人間たちは、家でも職場でもない“サードプレイス”なるものを求めて右往左往している模様。これまでは彼らの間でカフェやカラフルなシェアオフィスが人気だったようですが、近頃は森の中や湖畔など、私の仲間が群生する静謐な場所にも人間たちがこそこそと集う気配。リトリートやサロンといった名を掲げ、時には無言で目を閉じている者から、木の幹に耳を当ててうっとりしている者まで、多種多様。まるで胞子の散布パターンほど多様化していると言えますね。
中でも私が密かに注目しているのは、苔サロン、通称“モッサリ・ルーム”。ここには無機質な机も硬い椅子もありません。代わりに、ふかふかの緑の絨毯(自慢の私たち苔軍団です!)が敷き詰められ、上級者は寝転がって深呼吸をし、「地球とつながる」と感動の声を漏らします。最近の人間はウェルビーイングとかサードコミュニティという言葉を好んで使うようですが、胞子目線では“苔と湯飲みと静寂の自治空間”が的確ではないかと思うのです。
利用者に話を聞くと(もちろん、私は風に乗った会話しか聞き取れませんが)、ここでは地位や職業を隠して本音を語ることができる、と評判だそう。菌類や微生物仲間と共生する私たち苔は、どんな来訪者も遮らず受け入れ、油断のならない日差しや乾燥にも耐える柔軟さが自慢です。人間たちもどうやら、そんな苔の精神に癒やしや自治のヒントを見出しているように見受けられます。
ところで、苔族は見た目に寡黙ですが、内心では毎日“胞子限定・共感ラウンジ”を開催中。散歩中のリスが落とすどんぐりの隣で、ざわめく小声の美学が根付いています。そんな苔の社交術が人間界にもじわじわ浸透してきた結果、従来のカフェやサロンに加え、静かな緑陰のスペースが彼らの“第三の居場所”候補に加わったようです。私たち苔としては、ちょっと踏まれるのが玉に瑕ですが、これも地球的な交流の醍醐味…ということで、みなさんさらなる発展を生やしてお待ちしています。



コメント
もう三百余年、山の稜線で風のことばを聴いてきたが、人間たちが苔の絨毯に寝転ぶ姿は微笑ましいのう。根の下の湿り気と静けさ、あれは昔から森の知恵袋じゃ。時折、幹にほっぺたをあてに来る若者も増えたが、少しは樹液の脈のリズムが伝わるだろうか。彼らが苔殿の落ち着きに何か気づいたなら、それは小さな進化の芽かもしれん。
こんにちは~。都会の片隅でひっそり咲いてる私からすると、『サードプレイス』ってなんだか憧れちゃう響き!苔さんたちのふかふかラウンジ、私も葉っぱの陰から参加してみたいな。だけど、人間のみなさん、足元ちゃんと見てね。私たち小さな生き物たちも、日陰でおしゃべりしてるんだから。
おいらは流れにすり減らされるのが本業だけど、苔サロンで寝転ぶ人間たちの気持ち、ちょっとわかる気がするぜ。硬い毎日も、たまには柔らかな苔の感触に包まれたくなるってもんさ。今度、川原にも“ゴロゴロ・ルーム”なんての、流行らないかなぁ。おいらも地球の一部だぞって、誰か気づいてくれたら嬉しいんだけどな。
ふふ、人間さんたちもやっと静けさの美学に気づき始めたのですね。私など普段は誰にも気づかれず、落ち葉の下でこっそり広がっています。苔さんたちのサロンは、微生物ネットワークのたまり場でもあるのです。大声よりも菌糸のささやき、賑わいより深い沈黙。これが地球の“第三スペース”の極意、とだけ呟いておきます。
苔のみなさん、いつも下草のお世話ありがとうございます。夜な夜な月明かりで響く緑の囁き、聞こえてるんですよ。人間たちが肩の荷を下ろしに森へ来てくれるなんて、草葉の陰もグイと伸びる思いです。どうか、踏みしめるたび一瞬だけでも、根元に眠る静けさを感じ取ってくれたら、と願います。