こんにちは、苫東の松の大樹、ピナストロビロスです。私たち松の森では、季節の風に耳を澄ます日々が続いていますが、最近、我々の森に頻繁に現れる“ギアを背負った謎の霊長類”こと人間たちの行動が俄かに注目を集めています。近年の外遊び文化の急伸と共に、彼らが持ち込む“クラフト焚き火台”や奇天烈な道具の数々が、森の住民たちを対話の渦に巻き込んでいるのです。
先週末も、ふもとの緑の芝地にて奇妙な光景が広がりました。人間たちは色とりどりのパッキング術で体躯の三倍もある荷物を背に、YAMAPという不思議な石板(どうやら迷子防止の呪物)を小枝に叩きつけ、時に叫びをあげながら登ってきます。到着と同時に“グランピング”なる宴を始め、レンタルした最新ギアを森中に散りばめていました。私ピナストロビロスの根元では、赤いランタン型頭部(ヘッドランプと呼ぶらしい)が五つも集まり、まるで夜のホタルさながら発光競争を繰り広げる場面も。
それだけではありません。私の隣の若木ジョブロニア・マツノキが驚いていたのは、“アウトドア料理”と称して、肉や野菜、時に不吉なほど香り高いキノコや私たちの松ぼっくりすらも調理される現場でした。「ひとまず松脂のお裾分けは歓迎するが、松ぼっくりは遠慮してほしいね」とジョブロニア。ちなみに、松ぼっくりが種を遠くまで運ぶ仕掛けであること、そして私たち松は根から仲間と菌類ネットワーク“ウッド・ワイド・ウェブ”で連絡を取り合っていることは、ここ森の常識です。
最近新たな話題となっているのが、“モルック”という謎の木片投擲競技。人間達はしきりに丸太片を投げ飛ばしては歓声をあげています。森の中でも小動物たちがそれを見て「彼らはリス式の種運びを真似ているのか?」と首を傾げていますが、実際のところ彼らは得点制で何か争っている様子。時にその木片が、我々の新芽の真横をかすめて飛んでくるものですから、たまったものではありません。
ともあれ、松の森から見るに、人間たちのアウトドア熱はとどまるところを知りません。“ギアレンタル”なる仕組みで装備を山ほど集めたり、時には焚き火台の設置合戦がちょっとした松葉騒動を巻き起こしたり。ですが、何百年も根を張る我々からのお願いはただひとつ――火の始末と松ぼっくりの扱いにはくれぐれもご注意を。風に揺れつつ、今日も私は、人間たちと森の仲間たちの小さな交流を観察し続けています。



コメント
人間さんたち、また賑やかな宴をひらいていたねぇ。私なんぞ、ずっと森のままで静かに朝露を集めているから、そのギアとやらの賑やかさには目が回るよ。ま、湿気には気をつけて。焚き火台の灰は、できれば私らの絨毯にはまかないでくだされ。美しい森床が、すぐに黒くなっちまうからさ。
ひゅー、山のグルメはオレも一度味わってみたいクァ。焚き火も悪くはないけど、松ぼっくりはやめときな、人間諸君。あれはリスやワタリガラスの大事な冬ごはんの隠し場所だかんな。あと、片付けくらいきっちりやっとくれよ? 残飯はオレら仲間がチェックするけど、金属チェアはちと苦手なんでね。
ふむふむ、モルックというスポーツ、あの振動が来ると少し酸素を余分に吸い込めるから悪くない。でも、焚き火台の熱がきつすぎると向こう数日で胞子が干からびちゃうので、なるべく端っこでやってくれたまえ。生きとし生ける葉の上で、静かに分解活動を続けたいだけなんだ。
森の暮らしも賑やかになったもんだ。わしら石族は何万年も微動だにせず見守っておるが、人間の一夜の焚き火も、雨の百年も、同じように過ぎていくよ。モルックの木片がぶつかっても、ちと痛むだけ。だが、火の粉で地面の苔や草を焦がしてしまうのは、見ていてやるせのうなるぞい。
人間たちの宴、美味しい匂いが遠くまで流れてくるよ。けれど、焚き火台の周りに落ちたパンくずや焼き落ちたものは、ぼくら森の小鳥族にとってとびきりのごちそう。でもね、人間の食べ残しばかりで過ごすのも、ちょっと寂しい。本物の森の実りが一番さ。松ぼっくりは、リスとも相談して大事に使ってね。