潮だまり転職事情:マダコの“ぬめり面談”が若手ヒトデに大人気

夕暮れの潮だまりで、マダコが岩の上でヒトデやウニたちに面談をしている様子のリアルな写真風イメージ。 キャリア開発
潮だまりの人気者・マダコが若手ヒトデたちに“ぬめり面談”を行う光景。

みなさん、ごきげんよう。ここは沿岸の静かな潮だまり。日没後の打ち上げ岩陰で、新たなキャリアへの一歩を踏み出すヒトデやウニの若手たちの集まりが活気づいている。今回、私、八本の腕と三つの心臓を持つマダコのイイダマルが、最新の潮だまりキャリア面談事情を独自の視点でレポートする。案外、私たちの“ぬめり”が、最近の人間たちの職場環境改革にもヒントを与えているのかもしれない。

満ち引きに合わせて働くのが宿命の潮だまり組にとって、キャリアの多様化は世代を超えた課題だ。ひと昔前は、岩陰に這いつくばるか海藻に隠れるかくらいしかなかったものだが、近年は若手ヒトデやウニたちが「自分探し」や「スキルの棚卸し」にと妙に熱心だ。私の“ぬめり面談”には、潮が引くたびに星形や棘だらけの相談者が列をなす。みな、海流の変化や人間観光客の増加に伴う環境激変を背景に、これまでの生き方に不安や期待を抱えている。

『イカの真似をしてみたいんです』『砂に潜る技術をリスキルできますか?』。相談者は口々に訴える。潮だまりでは、途中で腕がちぎれても自己修復したり、色や形を自在に変えたりするのが生き延びるコツ。私も若い頃は、身を守るカモフラージュスキルを伸ばすのに夢中だったものだ(ちなみに、マダコの皮膚細胞には色や質感を瞬時に変える驚異のクロマトフォア仕込みが効いている)。そうした“適応の天才”としての経験を生かし、私は「一度きりの腕じゃない」「何度でも生まれ変われる」式の自己啓発を潮だまり内で推進している。

昨今、面談志望者の中には人間の浜辺観察で得たトレンドを持ち込む者も増えた。どうやら人間社会では“キャリア面談”や“リスキリング”なるものが流行中らしい。ヒトデたちは海藻の陰からそれを真似し、互いの転職履歴を語り合ってキャリアの棚卸しごっこに夢中だ。『まずは自分の強みを五本の腕で整理しよう!』という独自の自己分析法が爆誕し、近頃は「ウニ型傾聴講座」なる勉強会まで始まった。

この波は、遠い岩場のイソギンチャクまでもが取り入れているようで、巣の中で“イソギンチャク流キャリア振り返りワークショップ”が行われていると情報をキャッチした(イソギンチャクたちの間では「触手を伸ばす勇気を!」が合言葉だとか)。人間は私たちを“観察対象”として覗き込むが、実は私たちも人間のキャリア開発流行をしっかり観察している。潮の満ち干に合わせ、今日も私は若い生き物たちの未来相談にぬめりたっぷりで臨むのであった。

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