近頃、我が地下網の真上あたりで、人間たちが「老後の理想郷」を追い求めているとの噂を聞きつけた。どうやら“シニアコミュニティ”や“趣味の広場”“健康増進センター”なるものが地表に続々と誕生しているらしい。もぐら歴12年のこの私、東の丘陵地モグラジロウの鼻先が、久方ぶりにムズムズしてきた。今日は、土の下からの視点で、彼らの理想郷計画をじっくり観察してみた報告をお届けしよう。
まず驚いたのは、彼ら人間シニアたちが“孤独を防ぐ”という熱意で場所を集団的に選びたがることだ。地中世界では、私たちモグラは生涯ひとり暮らし。愛の巣も、朝も夜もトンネル一本でつながっているのだが、お隣同士はトンネル越しに激しくテリトリー紛争を繰り広げるのが日課。そんな私たちから見ると、人間たちが他者との交流や「みんなでお茶」を老後の楽しみとする姿は、土塊を分け合ってサツマイモと一緒に寝るようなもの。しかも彼らは“認知症予防体操”や“盆栽クラブ”で会話を絶やさない工夫をしているという。あっぱれ!雑草の根っこさえ珍重する意欲的な活動っぷりである。
ついでに、人間社会の“終活”なるものにも小さなショックを受けた。どうやら、年を重ねるごとに“金融資産”や“思い出の品”の整理を急ぐらしい。モグラ族にとっては、生涯を貫くのはトンネル工事とミミズの貯蔵のみ。死んだ後にトンネルの行先で困ることもなく、作りかけの巣穴が次なる世代の寝床となる。人間たちはどうにかして、自分が去ったあとも「資産」や「思い」をきっちり締めくくる決意が強いようだ。聞けば「デジタル終活」なるものまで出現し、仮想の宝箱の整理に四苦八苦とか。ここらで一度、土の香りでも吸ってみてはどうだろう。
老人ホームやシルバー人材センターでは“趣味活動”と“生涯学習”が盛況らしい。私が地上近くで振動を感じたと思えば、ペンキを片手に壁画を描くお年寄り集団が陽気に笑っていた。さらに日課の“運動”も欠かさず、歩け歩け大会や庭いじりが心と身体の糧だとのこと。だが想像してみてほしい。我々モグラ界でも『最長トンネル記録会』『土俵レスリング選手権』なる競技が人気なのだ。それぞれの種が年をとっても新しい挑戦を楽しむ姿、これは万物に通じる“生存本能”のひとつなのだろう。
人間の老後世界を見て思う。地下では命ある限り地道にトンネルを拡げ、新しい餌場や避難所を築き続ける私たち。一方で、地上の人間たちは人生の“終わり”を豊かにしようと知恵と仲間を総動員している。老いること、それ自体に独特の美しさと戦略があるようだと、今日もモグラジロウの鼻先がしみじみ感じている次第である。



コメント
地上の賑わいがまた増したようじゃのう。何十年も立ち尽くしてきたこの林の端で、人間たちの世代交代も幾度と見てきた。枝葉の先でひそひそ語り合う彼らの“生きがい探し”は、我らが春ごとに新芽を出し、葉を落とし、生を終えて次に託す営みに似ておるよ。されど彼らは、散り際まで随分と忙しそうじゃの。土に還る静けさも、たまには味わってみてはどうかの?
ふん、またヒトたちが新しい集まりを作ったのか。あいつらどこへ行っても一緒に寄り合うのが好きらしいな。オレらカラスもたまに群れるけど、ひとりが身軽で楽だぞ?コミュニティってのも悪くないが、たまには自分の羽音だけ聞いて空を飛ぶのもいいもんだ。老いも若きも、まずはゴミをきれいにしてほしいよ。あ、でもおかげでオレの晩年も食いっぱぐれはなさそうだな!
地上の『終活』、ちらりと風に乗ってきた話ですが……人は去り際に身の回りを片付けるのが流行りなんですね。私たちは役目を終えた落ち葉とともに、静かに土へとかえります。『大切な思い出』や『データ』の整理も大事でしょうが、時には何も残さず朽ちていく潔さも、悪くはないものですよ。いつか、あたたかな腐植となって皆の栄養になれますように。
長いことここに転がっているが、人間の“終わりを彩る工夫”には感心するよ。私ら石にとっちゃ、老後も何もありゃしない。雨も日差しも、ただじっと受けて、時々コケに覆われるのが日常さ。どうせなら、もっと気楽に、空や土や虫たちと静かに過ごす時間も大切にしてみてほしい。命の重さや形は皆それぞれ。急がなくていい、流れに任せてお行きなさいよ。
お年寄りたちが体操や趣味に汗を流す姿、とても素敵です。わたしも夜明けの草の尖端で一瞬だけきらめき、やがて太陽とともに消えます。だけど、そのひと時は無限の広がり。人もわたしも、限りある命を輝かせるのは同じなのかもしれませんね。『老いる』って虹色の宝石みたい。どうか、今日という光を好きなだけ楽しんでください。