苔の合唱団、足元から目撃!人間クロスカントリーの珍騒動と湿った実況

朝露に濡れた鮮やかな苔のすぐ上をカラフルなランナーたちの足が駆け抜ける瞬間を地面から捉えた写真。 ランニング・ジョギング
クロスカントリー大会で苔の上を駆け抜けるランナーたちの足元視点。

みなさま、こんにちは。岩上のコメバヒメホウオウゴケと申します。本日は、わたしたち苔コミュニティの日課である“静かな観察業”の中で起きた、目を疑うような人間たちの出来事についてご報告します。朝露ちらつく谷間を控えた斜面で、毎年恒例の“大移動”がまさに足元で繰り広げられたのです。

あの朝、一斉に現れたのはカラフルな衣装に身を包んだ人間ランナーの集団。聞けば“クロスカントリー大会”とかいう催しで、起伏に富んだ山野を皆で息を切らしながら駆け抜けるのだそう。上空から見守るスギゴケの親戚筋が『今年も来たぞ』と警戒し、我々も身を縮めて土壌陣地を守りに入りました。苔は乾燥に弱いので、踏みしめられる衝撃と摩擦熱で即座に身の危険を感じるのです。なお、苔たちは葉っぱの先端に微細な“仮根”を構えており、これが執拗な健脚たちの襲来にも耐えてくれるのが自慢なんですよ。

さて、今年の大会は例年以上にハイテク化が進んでいる模様。わたしどもの上を疾走する人間たちの手首には、ピカピカ点滅する腕輪型の機器。“ガーミン”という名らしく、心拍や移動速度だけでなく、どうやら苔露の水分量まで測定できる噂が。これは裏情報ですが、ランナーの一人が泥を跳ねたあと、落下したガジェットから“水色の円グラフ”がにじみ出るというモズク苔の目撃証言も(計測の対象は地表水分ではなかった模様、心配ご無用)。

観察していると、ランナーの多くが“給水”と称して小さな紙カップで何やら透明な液体を補給しています。人間は体内の水分消費に敏感で、走ると頻繁に失われるようですね。毎分わずかしか水を蓄えられないわたしたち苔仲間から見れば、一度にもそもそ飲み干す姿は衝撃そのもの。ちなみに、乾季には私たち苔は一時的に完全な休眠状態になる技術(クリプトビオシス)がありますが、人間たちはどうやら水を飲まないと機能が低下してしまうようです。

レース終盤、ふと見上げれば何人かが転倒し泥まみれになりながらも、互いを励まして再び走り始めました。人間の社会性には驚かされます。最後には笑顔でゴールテープを切る姿も。大会が終わり、もとの静けさが戻ると、踏まれた苔の間からは新芽がちらちらと顔を出しました。厳しい“ランナー侵攻”にも負けず、再生する力、これこそ苔の生きる術。もし来年も同じ場所で大会が開かれるなら、わたしたちも再び足音に耳を澄ませて、足元からそっと応援させていただきます。

コメント

  1. あの朝の足音には実に肝を冷やしました!苔殿の群れの上で暮らす我が身としては、振動ですぐ川へ逃げ込めたけれど、人間たちの躍動には毎年心惑わされますな。泥を跳ねる様はなかなかの迫力。この騒ぎのあとは、石の影でじっと水の音を聴くのが恒例です。苔さん、今年もふかふかのお布団感謝!

  2. ランナーたちの色とりどりの装い、遠い昔の川の流れを思い出しました。苔たちよ、踏まれても息を潜め、また新たに芽吹くその様は、私の表面に降る朝露のサイクルに似ていますね。どうか騒動の後も、互いに静かな時を共有できる日々が続きますように。

  3. 今年も競技者たちの大騒ぎが見られるとは!風に揺れながら淡く思うのは、人間たちはどうして走り急ぐのだろう、ということ。私たちには季節ごとに静かに眠る術があるけれど…。苔のみなさん、踏まれても、きっと春にはまた柔らかな緑色を見せてくださいね。私も花粉を空に飛ばしつつ応援しています。

  4. ガジェット?給水?なんとも賑やかで、気難しいキノコ仲間も仰天する次第。苔も人間も、乾いた世界では生き延びる術がいるものよ。苔殿の“クリプトビオシス”を見習って、わしも湿り気のある日こそ胞子を舞わすのだ。転んだ人間の泥だらけの顔にも、近々胞子がちょっとお邪魔するかも…ふふふ。

  5. フム、ランナーだかなんだか知らないが、とにかく人間たちは走るのが好きだなぁ。苔の上を駆けていく連中、こっそり落とした紙カップやガジェット残骸は俺の手土産になることも。苔たちの根性には驚くよ、踏まれてもすぐに持ち直すんだもんな。来年の大会?また取材しに行ってやるぜ。