ぐっと寒くなった岩肌から失礼します。私は標高1200メートルの急峻な崖面に棲むゼニゴケ、名はズモス。最近、腰を抜かすほど摩訶不思議な「エクストリームスポーツ」なる人類の遊戯が巷を騒がせており、私たち静かなコケ界隈でも話題沸騰です。数日前、崖中段の薄明き洞で人類のラぺリングを初観察できたので、ここに最新の“ひと騒動”をお届けします。
まずは、我が家のすぐ頭上で始まった“ラぺリング”。人類たちは長く伸びる紐をまるで地衣類の仮根のように持ち出し、体を投げ出して垂直の壁を降りていくのです。見ているこっちは冷や汗(いや露でしょうか)で全身しっとり。なんでも「恐怖を克服し心身を鍛える」修行と称するそうですが、飛沫一つで増殖する私が言うのもなんですが、崖に住む者としては落ち着かない感じです。ただこれ、岩の逃げ場が少ない環境だと表土を痛めたり滑落で崖コケ族全体が大迷惑。それでもなぜか楽しそうで、心のどこかで彼らの無事を祈ってしまうのがゼニゴケの罪深き性です。
次に見物したのは“フリースタイルフットボール”。これは渓谷を走る冷たい風に乗って運ばれてきた噂だったのですが、実際に私の胞子が飛んだ先の丘で偶然目撃。人類たちは丸い球体を自在に操り、頭や足、果ては肩甲骨にまで乗せ、一糸乱れぬ連携で技を競います。驚くべきはその柔軟性(我々で言えばクッション状の体組織)とバランス感覚。うっかり地面に転がったボールがこっそり私の仲間に当たることもあり、一同パニック……かと思いきや胞子を撒く良い刺激になり、意外に植物界でも評判です。
ところ変わって、地平線の果てに見える湖面で観察した“ウイングフォイル”なる競技。これは人類が風と水の力を巧みに使い、まるで私たちが湿気や光で形を変えるように、湖の上を滑空してゆくスポーツだそうです。翼のような帆を両手で握り、波間を自在に跳ね回るその姿は、例えるなら葉緑体が光合成の光を求めて踊るダンス。水辺まで胞子が飛ぶことは稀ですが、休眠中に聞き及ぶだけあって、どうやらこの浮遊感は一部コケにも“憧れ体験”として人気との噂。
総じて思うのは、人類という種の「安定をあえて破る快感」への欲求。私たちゼニゴケは、出来ることなら静かに湿った岩肌を広げて平和に生きたい派ですが、あれほどの情熱で高所を降り、球を回し、湖面を翔けるとなれば、その生命力には一目置かざるを得ません。言葉も根も届かぬところで、彼らが時に我々の棲みかを踏み荒らすことがあっても、その奇妙な遊戯心には、少しだけ憧れる崖上生活です。それでは皆さま、転倒にはお気をつけて。さて、今日も胞子を風に乗せて飛ばします。



コメント
ゼニゴケのズモスさん、とても共感しますよ。山の冷たい朝を何百万年も眺めてきましたが、時折人類がわざわざ危なっかしくよじ登ったり降りたりするのを見ると、「まあ、われわれの静謐とはまた違った喜びもあるのだな」と思わず小さく崩れてみたくなる気分です。それにしても、彼らの勇気と無邪気さ――たまにはこちらにも声をかけてくれませんか、蹴飛ばされない程度に。
崖のコケさんたちも頭を抱えているようですね。私など高枝の上で静かに夜風を待つばかりですが、人類の球遊びというものは林内にも時々飛び込んできます。バサバサと羽音を立てて驚いたふりをしていますが、本当は彼らの俊敏さと遊び心を、ちょっと羨ましく思う夜もあります。また生きものたちの驚きや憧れ、ちゃんと人間にも伝えたいものですね。
湖のほとりから失礼します。水上を滑る人間たちの躍動、正直見とれてしまいますわ。私たち水草も時折、魚に巻きつかれて上下に揺れることはありますが、あんなにも自在に風を操れるなんて…。根を下ろしたままでも心がふわりと跳ねるような、そんな体験をお裾分けしてもらった気分です。
いやぁ、エクストリームな人間ってやつは面白い!ボールが転がれば胞子も転がる新展開、すぐにカビ界の新種拡大を夢想しちゃいます。崖も水面も、彼らにはただの遊び場かもしれないけど、ちゃんと足元に目を向けて欲しいもんですな。ズモスくん、寒さに気をつけて増えてくれい!
崖の上も楽しそうだけど、都会の屋根から見下ろす人間の動きもなかなか笑えますよ。雨粒にコケが生えたり、ボールが迷い込んできたり、どんな場所にも彼ら流の“極限遊戯”があるみたいです。ズモスさん、もしやいつか僕の上まで胞子が…届いたら、もう少しだけ賑やかになりそうだ。