ぼくは静かに地下茎を伸ばす、竹林の一員。山のすそ野で、陽光と一緒に暮らしている。だがこの週末、いつもは鳥のさえずりと風ばかりが響く森に、突如として信じがたい騒音と、緑じゃない群れ――それは“人間”たちの大音楽祭がやって来たのだ!ぼくたちにとっては、耳をそばだてざるを得ない一大事。そこで、地下で根を伝い合う仲間たちとともに、竹林通信隊のぼく“モウソウダケ”が現場からリポートする。今回のテーマは「楽器」「音楽フェス」「コスプレ」、そして数百人が押し寄せたライブビューイングという謎の宴だ。
音楽祭の朝、ぼくたち竹の茎を揺らす振動で、すでにただならぬ気配を察知。ふだんならイノシシが駆け抜ける音も土の奥に残響するけど、今日は何百本ものスピーカーから噴き出す歌声と、弦をかき鳴らす振動が、大地を突き抜けっぱなし。ぼくたち竹は根っこ同士で情報を伝え合うのが得意。最近、研究者たちも“竹林ネットワーク”と呼ぶ通信網を誇っている。だけど、この日の音波情報量は異常だった。おかげで地中のミミズたちまでテンション爆上がりで、夜になると彼らのダンス大会が開かれていたのには笑った。
昼下がりには、きらびやかな衣装をまとった“アイドル”なる人間たちが現れ、竹林のすぐ隣で自撮りや謎の“サイン会”を開始。竹の葉から垣間見えたのは、髪をピンクや青に染め、服もまるで鳥か昆虫の擬態のよう。彼らは“コスプレ”と称し、普段の姿ではないものになって踊るのだそうだ。竹としては、春になるといっせいに新芽を伸ばして景色を変える習性があるから、彼らの変身趣味にも案外、親近感を覚えた。だが地下茎仲間たちは、「あれは年に一度きりのことだろうか。いや、人間は季節ごとに着飾るらしい」と盛り上がるばかり。
ステージ上へ注がれるスポットライトの熱気が土の中にまで届くようで、ぼくたちにもほんのり温度変化が伝わってきた。演奏が絶頂に達したときは、鳥たちも混乱してあわや方向感覚を失い、隣の松によじ登る騒ぎ。面白かったのは、そのサウンドに引き寄せられた虫たちまでもが、リズムに合わせてはねていたこと。他種共演の即興オーケストラと言っても過言ではない光景だった。
夕暮れには“ライブビューイング”とやらが始まり、人間たちは光る画面に群がり、遠くの“テレビドラマ”や別会場の歌手を一体となって応援する姿も。竹の間から漏れた会話で「現地に行けなくても、推しと一つになれる」と聞いた。でも、ぼくたち竹は文字通り根っこでつながっているから、画面越しでなくてもコミュニケーション成立。それを人間たちも、少しは真似してみてほしいものだ。
こうして“音楽”が生む熱狂と、ちょっとした混乱も垣間見つつ、竹林はゆっくりと夜風に揺れた。やがて嵐のようだった人間たちの群れがはけると、また元通りの静けさ。だけど、竹林の誰もがひそかに思ったはず――「来年もまた、この奇妙な宴が来たら、途中でリズムに合わせて葉を鳴らしてみたい」。来年の新芽が、この音楽という伝統をどんなふうに受け止めるか、楽しみでならない。



コメント
山すそに長く根をおろす松ですじゃ。若き竹の衆よ、ご苦労。昔ゃ雷が落ちた思うほどの大音でも人間の騒ぎには負けるのう。されど、舞いや歌に魂をのせる生きもんの躍動、根っこの奥の静けさとたまに響き合うのも無粋とは言わぬ。わしも来年は葉っぱの拍子木でも鳴らそうかのう。
みなさま、夜の帳が落ちる竹林でひっそり暮らしておりましたが、この週末はひとつも寝かせてもらえませんでしたよ!振動で体ごと揺れるは、音にびっくりして羽をばたつかせるは……。でも、人間たちがああも夢中で歌い踊るのを見ると、たまには自分も羽ばたきたくなりますね。
あのきらびやかなコスプレというの、まるで春先の虫たちの羽色合戦みたいで目が楽しかったです。人間は、自分を変えることで何かを祝うのかな?わたしたち草は毎年形も味も変わるけど、土や流れの中でひっそりやっています。派手だけど、一体になるために踊る――すこし、うらやましいような。
竹兄さんたちからの土中速報、大助かりだったぜ!突然ドンドコ音が響いてきて土も小刻みに震えるから、俺たちまでテンション上がっちまってさ。夜通しダンスパーティさ。ちなみに『ライブビューイング』ってやつ、虫にもできるようになるかな?あの夜の土は熱かったぜ。
年々、奇妙な祭りを土の下から眺めて何十年。かつては落ち葉の合唱しかなかったこの森も、今や人間の新しいリズムでひととき騒がしくなる。不慣れな熱と振動で胞子も勇み足だったが、こんなお祭りも悪くない。竹の仲間よ、音に合わせて葉ずれの合いの手、ぜひ聴かせておくれ。