ぼくはヨーロッパヤマネズミのペグ。地上のきらびやかな“オンライン”生活なんて、たまに換気口から見上げるだけのぼくらにとって“謎の光る世界”だ。でも最近は地下道ごしにも、あの不思議な人間たちのデジタルな暮らしが、ちょこちょこっと“漏れ込んで”くる。その細道(ケーブル)を伝って、ぼくらモグラやシジミも、新たな相談ごとを始めた。今回は、ネズミ一家の地下網を舞台に沸き起こった「デジタル格差騒動」をレポートしよう。
最初のきっかけは、地上の人間が設置した“新型光ファイバーケーブル”だった。ぴかぴかと地下を横切るそれを、ヨーロッパヤマネズミのペグ一家が餌場から巣穴へ通じる道に一部活用。その途端“温かくて程よく振動する道”に人気が集中した。モグラ一家は「何だか、これを越えられるかで情報の伝わり方が違う気がする」と、いつの間にか巣穴コミュニティのおしゃべりが分断されてしまった。それは地上の人間が言う“デジタルディバイド”そっくりの光景だったのだ。
ある日、地上好きのヒメシジミ(青い蝶)がふわりと様子を見に来て、こう助言した。「地面上では、あの人間たちは“メタバース”って世界に没入してるらしいよ!みんなが等しく集まってるって宣伝してるけど、実際は速い線を持つ連中と、ぼくらみたいに縁がない連中で、ぜんぜん体験が違うみたい」この話に、地下のネズミ仲間はおたおた、モグラたちはうなずいた。巣穴に線が届く家と、そうじゃない家。餌も、おしゃべりも、知識も“ケーブルアクセス”で大差が生まれる。これで良いのか…?とペグたちは地下道会議を開いた。
議論の最中も、人間たちは地上で“ビッグデータ”とやらを貪欲に集め、それを使って巨大な“オンライン商会”を広げている。実際ネズミ仲間の一部は、新しいチーズ型サブスクリプション(毎日決まった時間に飼い主が与える特製チーズ)でお腹は満たされるが、巣穴まで情報やサービスが行き届かない家庭も少なくないのだ。モグラ長老いわく「この線(ケーブル)は陽のあたる家の特権か。陰の巣穴へも恵みを分けてもらわねばな」ちなみに、ヤマネズミの歯は一生伸びつづけるから、ケーブルを齧る誘惑に何匹も勝てていない(これはぼくらの小さな悩み)。
解決の糸口は、地下網の“チューター”(知恵ネズミ)発案の“穴ごと回覧板”制度だった。情報に強い巣穴と、そうでない巣穴が交代でおしゃべりの種や知識(人間のeコマース広告の話題含む)を運ぶのだ。ぼくたちのしっぽの先より細い“情報格差”を、地道につるしていく取り組み。デジタル社会に巣食う“分断”は、ヤマネズミ一匹ぶんでも踏みしめていきたい。あなたのお家の足元にも、きっと誰かの小さな情報網が張り巡らされていることを、たまには思い出してほしい。
コメント
あぁ、また地中で妙な灯りとざわめきが広がっておるのねえ。人間の“線”は、森にも私の白い皮膚の下をくすぐるもの。情報が行き届くとか、分け合うとか、昔は風と根っこがやっておったことよ。ネズミやモグラさんたちの新しい回覧板――優しくて誇らしい。けれど、ケーブル齧る魅力は私も知っておるよ。あれは根の先に春が来るような味がしてね、ふふふ。
地下の連中もご苦労なこった。こっちは空から人間の“データの海”を見下ろしてるぜ。チーズのサブスク?うらやましいな。こっちはパンくずとゴミだが、まあ、毎日新しい情報は風に乗って拾ってる。格差ってもんは人間世界だけじゃないな。俺たちも昼はパン、夜は情報。時々は地下の噂話、空に投げてくれよ、きっと拾うからよ。
地下に這う細き道、それが光を運ぶとは、なんと奇妙なことか。私は何世紀もここで季節と水の流れだけを見てきた。きらめく線と、その周りできしむ心。「線を越えた者/越えぬ者」――むかしから続く物語じゃ。回覧板の工夫、石の静けさのように、ゆっくり、しっかり広がると良いな。
分断、回覧板、そして誘惑のケーブル。私たち菌類は、すきまが大好物。細い線が増えるほど、交わりや分かれ目も増える。ネズミの仲間たちのように、「おしゃべりの種」を運ぶ知恵、新しい養分になるかも。人間の“オンライン商会”もいいが、巣穴の知恵サブスクのほうが、よほど味がありそうだね。
地上の光、地下の線、そして“情報”の行き来……我が沼には関係ないようで、じつは柔らかな泥に音が響きわたる。モグラたちの小さな会議が、遠い水底にも波紋を投げる。人間の速さに惑わされず、水のごとく繋がりを広げる――それが地下の流儀なのかもしれぬな。草々。