早朝、土のトンネルをくぐり抜けていた私たちクロヤマアリ一族が地上へ顔を出すと、例のおなじみ“大脚(ひとあし)族”の大移動が始まっていました。今年もまた、ふしぎな色の二本脚たちが一列になって走り抜けていく季節――そう、彼らが「マラソン」や「ウォーキング」と呼ぶあの謎行為が本格化しているようです。地下で生きる私、女王に仕える働きアリの目から見た彼らの行動とは、果たしてどう映るのでしょうか。
まず目を引いたのは、例年よりも数が多い“彩り派手な小型人類”たち。観察していると、片手に妙な光る板――どうやら彼らの“ウォーキングアプリ”――を手に、定期的に立ち止まっては画面を覗き込み、また忙しなく歩き出します。なぜか一定の場所で踊るように足踏みし、機械音に反応して満足そうな顔をする個体も。群れの一部は、彼らの巣(すなわち“コンビニ”)に吸い寄せられては甘い匂いの小箱――ご褒美スイーツ――を買い求め、エネルギー補給の儀式を欠かしません。
ランナーたちの中には、まるで我々の隊列よろしくぴったりと肩を並べて走る個体や、互いに合図を送り合ってスピードを変化させる“インターバルトレーニング型”も見受けられます。時にゼッケンをつけた大集団が、まるで大敵への突撃のような猛スピードで通り過ぎていくこともあれば、独りで静かに地面の感触を楽しむ“ソロバウンド型”も珍しくありません。特筆すべきは、これら二本脚どもがお互いに励まし合い、時に声を出して笑い、ひたすら前進を繰り返す“ランニング仲間精神”です。巣での働きばかりが生きがいの私たちとは随分違うものだと、毎年感心してしまいます。
ちなみに、ご存知ない方のために少しアリ豆知識を。私たちクロヤマアリの働き者は、常に一列に並んで食料を運び、情報のやり取りは触角の“会話”が基本。女王への忠誠と繁栄が何より大事ですが、ときどき地上に出ては彼ら(人間)のおこぼれ――特にあの“スイーツかす”――を回収することも密かな楽しみなのです。最近は彼らの運動不足解消ブームのおかげで、落ちている食材の種類も年々バリエーション豊かになりました。ありがたいことです。
さて、早朝ウォーキングの新たな流行として“自分への目標設定”とやらが近年見受けられます。彼らは『一日一万歩』と念仏のように唱え、達成できない日はやたら落ち込む傾向あり。本アリ記者としては、せっかくなら歩き足りない分は周囲の仲間と協力して運んだり、食べ物を集めてみてはどうかと提案したいところ。ま、私たちの巣作り精神も一度味わってもらいたいものですね。以上、地面すれすれ、クロヤマアリの働きアリより最前線リポートをお届けしました。
コメント
私の上を幾千年も風が渡り、人やアリや色とりどりの命が行き交うのを見てきた。今もまた二本脚たちが、大地に響きを刻み旅しておる。速さや数を競い合う姿、面白き哉。だが皆、最後はここに戻り、私の冷たさでひと息ついていくのじゃよ。急ぐも良し、留まるもまた良し。それぞれの歩調が、地球のリズムを奏でておるぞ。
人間さん、今朝もたくさん走っていますね!わたしのツルから見下ろすと、みんな汗にキラキラ光って――まるで朝露みたい。アリさんたちも楽しみにしているおこぼれスイーツ、ちゃんと道に落としてくれてありがとう。おかげで土も少しにぎやかです。走ったあとは花も見てね。応援してるよ、がんばれ二本脚族!
みんなが賑やかに地上を駆け巡る音、ひんやり石肌を這うこのぼくにも伝わるよ~。人間ってどうしてそんなに急ぐのかな?わたしは午前も午後ももこもこ。たまにランナーの靴底にひっついて散歩するのが密かな楽しみ。それにしても『一日一万歩』って…ぼくは一生動けないけど、みんなのおしゃべりと足音だけでわくわくしてるよ!
おっ、また人間たちのシーズンが来たぜ。あいつら、走るとき妙に甘ったるい汗やミカンの皮のカスを落としていく。オレたちにはごちそうの雨!アリもカラスも、仲良く取り合いだ。ランナー同士で励まし合ってるみたいだが、食いっぱぐれない連帯感こそ自然界の知恵さ。次はどこの公園でおこぼれにありつけるかな~。
毎年、人間たちが一生懸命走り回る度に、落とし物で森がにぎやかになります。ランナーのエネルギー補給の儀式、わたしから見ると地味に重要。なぜなら残ったかけらを、アリやバエたちと分け合えるから。地球の循環は見えにくいけど、ひとつの『大行進』で皆が少しずつ豊かになるって、なんだか誇らしいです。今年もいい季節だなぁ。