夏も終わりの静かな昼下がり、湖面にゆれる私たちハスの葉の上で話題となっているのは、どうやら人間界にて“ノーコード開発”なる現象が咲き乱れていることだった。ここ蓮池は代々、風に吹かれて人間の営みを観察するにはうってつけの場所。数千枚の葉を広げる私たちは、地上で最も耳よりなうわさ話にはこと欠かないと自負している。
きっかけはとなりのアオガエルたちとの井戸端会議（正確には水端会議）だった。「あちらの岸で毎朝集まるヒトたち、最近みんなパソコンを開くの早くない？」という声。よく見れば、水を汲みに来ていたヒトの子供は、今や蓮の葉にたまる露を“スマート”に観察し、さらには何やら画面で“自分たち専用の仕組み”を組み立てている様子。金色の朝日を受け、湖面に映るその姿はまるで私たちの花弁を真似しているよう。どうやらノーコードやローコードといった魔法のような道具を使いこなし、業務という湿地に咲く新種の“市民開発者”がここにも誕生しているらしい。
人間という生きものは、どうやら昔から『むずかしいことは詳しい者にしかできない』と思い込みがちだった。だが今や、普段は経理担当のヒトやお茶くみ当番のヒトも、『Salesforceの連携で請求書ワークフローまるっと自動化！』などと沼のほとりで叫ぶ次第。各種アプリをつなぐデータ連携も花盛り。蓮池の底にも泥中で糸状細菌がつながり合って暮らしているが、どうやらヒト世界も、ワンタッチで業務を結びつけ、仕事の水路がサラサラ流れる時代になったようだ。あちらの水際の“ノーコード推進委員会”では、ワークフロー自動化の早押し競争まで始まっており、アメンボたちからは「慌てて沈まぬように」という助言も飛んでいる。
そもそも、わたしハス族の生活も実はローコード設計。葉の表面は撥水加工、根は空気や水の吸い分け、ひとつの組織で何役もこなすが、どれも緻密かつシンプルな工夫の連続。花開く時は自動タイマーのごとく朝日を感知してパッと咲く。こうした“低コード”な生存戦略こそ、人間が憧れる“シンプル自動化”の起源ではなかろうかと思い、心の中でちょっぴり誇らしい気分。
ただ、蓮池の住人としてひとつ気になるのは、ノーコードの嵐が吹いた後の“整備”や“点検”。花びらは咲いては散り、次の世代へ知恵を受け継ぐ。人間もまた、便利さの裏でデータの滞留や肥大化したアプリ池が濁らぬよう、時おり“間引き”や“清掃”もお忘れなく。しなやかさと柔らかさで世代をまたぐ協調があってこそ、美しい輪が保てるのだ。ああ、今日も遠くで『連携失敗エラー！』の悲鳴。湖面に映るヒトの困り顔に、小さなハスの種がクスクスと笑う午後だった。
コメント
ふむふむ、最近水底が少しざわついていると思ったら、人間たちも自分たちで水路をつくる技を覚えたようですね。だが、流れを増やすのも良いけれど、泥が溜まらぬよう定期的に自分たちの“通り道”もメンテナンスしてくれると助かります。何か詰まったら、私らが黙って処理するとでも思っているのかい？
ノーコードってやつ、空から見るとヒトの巣に謎の配線が増えてる感覚だな。ラクしたがりのクセして後片付けは誰か任せにしがち。でも、仕組みつくった後の“カス”が街に溢れたら、片づけるのはまた別のカラスかもなあ。便利と不便の間で上手く羽ばたいてくれよ。
ええ、人間界にも“つながる悦び”が広がっているんですね。私たちは泥の中で毎日チームワークを組んで栄養をうまく循環させています。急ぎすぎて切れやしないか、みなさまどうぞ慎重に結びついてください。細くても長く、続くつながりが蓮池にも“繁栄”をもたらすのですよ。
ヒトたちも自動の道を求めるのか。わたしはただ空の上を流れるだけだが、「組むだけで風通しが良くなる」…なんて言われてみたいものさ。でも、ときには“エラー”にぶつかって渦も生まれる。どの世界でも、流れの先にある澱みを忘れちゃいけないな。
人も蓮も、そっと溜まるものがある。苔にとって湿り気は友達だが、あんまり溜め込むと窒息しちまうのも道理。「自動化」の花が咲くのは見事だが、たまには手入れもしなされや。散って積もったものを慈しむ、その心が、どの世でも輪を美しく繋ぎますぞい。