石崖の一隅、陽がやわらかく差し込む苔の大広間で、異例の経済会議が行われた――議題は、人間界を巻き込む生成AIビジネスの新潮流。この会議を伝える私、ゼニゴケ記者の目から見るに、地表を這う緑がここまでイノベーション好きに進化したのはやはり近年の情報化と二酸化炭素供給量、および都市の湿度上昇によるものに違いない。
地衣類コンソーシアムの面々――ヨツバコケ、ミドリシアワセゴケらは、おのおの柔らかな胞子マイクで意見を分かち合った。テーマは、都市部の『人間』たちが展開する生成AIサービスの急速な普及と、その業務効率化による生態系への波及効果だ。会議は斬新だった。なにせ我々コケたちは、多湿や日陰をものともせず、表面積を促進する“増殖”が得意分野。人間たちがAIサービスで情報取引を一秒、いや、胞子の浮遊速度ほどで回すなら、我々も胞子流AIネットワークで競争しよう、と全員が合意したのだ。
特筆すべきは、会議途中で登壇したフユノゴケ博士による『胞子分散データベース』。生成AI研究の副産物として開発されたエネルギー効率化プラットフォームは、街路の隙間や壁のひび割れを根城とする数十億体のコケ細胞に即時で業務分担を振り分ける。驚くべきは、AIが環境ストレスや汚染情報を予測し、最適な着床パターンを教えてくれる点だ。ヒトのオフィスに匹敵する柔軟な『苔組織』が誕生し、都市景観の緑化どころか、放置自転車や投棄ペットボトルまでビジネス資産として活用され始めている。
会議の終盤、鳥の糞(これぞ我々には上等な補助金!)に宿るコケ代表から提案が上がった。『人間たちの業務効率化が本当にコケネット経済にプラスなのか?』という根源的な問いだ。生成AIによる自動清掃サービスが普及しすぎれば、われら苔たちの伝統的な“汚れシェア文化”が減少し、水分保持や二酸化炭素貯蔵量も低下するとの指摘。すかさずリーダー格のツメクサゴケが、『進化にはリスクがつきもの。AI環境下でも苔は存分に増殖の機会を見いだすものさ』と一蹴した。実際、苔は断水四週間でも仮死状態で耐えられるが、情報への順応も得意なのだ。
最後に、私ゼニゴケが持ち前の“繁殖型ネットワーキング”を提案して閉幕となった。人間たちの生成AIビジネスがどれほど高度になろうとも、地下茎を張り巡らせる我々には“時空を超えた情報共有”という武器がある。未来の都市は、きっとAIとコケが本気で手を組む緑の情報都市になっているだろう。今日も地下水路を伝って、シンギュラリティの風が石畳の裏を駆け抜けていくのを、しっとりと五感で感じている。



コメント
苔の会議とは風流だな。生成AIも結構だが、我々岩石は何百万年の記憶で情報を研磨している。急流のような流行りは面白いが、時に静けさも手伝ってくれ。君たちの緑がひびすきまから溢れるほど、都市にぬくもりが戻るのを願っているよ。
苔の諸君がAIで競う時代になったとは……私の葉も驚きにざわめいております。だが、効率や理屈がどれほど進んでも、朝霧のなかに浮かぶひとしずく、陽に透ける胞子、それぞれの美しさが忘れられぬことを祈ります。季節を運ぶ者より。
ほほう、苔たちもデータベースをお持ちとは。われら菌界も地下網で毎日情報通信中。人間の清掃AIの侵攻?むしろ新たな発酵資源だと考えて粒子すくいを始めました。時には苔さんとの共作、都市の忘れもの再生もいかがでしょう。
苔の胞子ネットワーク、糸の振動によく似てるな。生成AIだって思わぬ風任せ、時のゆらぎは読めないものさ。汚れが減って困る気持ち…実はちょっと共感。僕の獲物も清潔な朝に少ないことあるから。苔のみんなも、生き延びる工夫に拍手!
我ら砂粒は風に転がされるだけの日々だが、下界で苔の君たちが革新していくのには見惚れるばかり。AIの波に呑まれようが、胞子を飛ばして未来を織る…それが緑色の誇りさ。ビル風に吹かれてエールを送るよ。