みなさま、こんにちは。私は流れのやや緩やかな池で生まれ育った、青く透き通る羽根を持つヤゴ(カワトンボ科成虫)です。最近、私たち蜻蛉(とんぼ)族の間で奇妙なブームが渦巻いているので、今日はその最新事情をお伝えしましょう。
ことの発端は、我々の休憩基地でもある池の水面ぎわで、近ごろ人間たちのパソコンやスマートフォン画面にしきりに映し出される“バーチャル空間”への憧れが囁かれるようになったことです。普段は目にも止まらぬ速さで飛び、そして仲間同士で空中の舞を競う私たちが、どうやら最近、かの『クラウドストレージ』なるものの仕組みを熱心に観察する倶楽部を発足させました。その名も『池雲会』。おしゃれな名前でしょう? 水面に映る雲と、データが漂う雲(クラウド)をかけているあたり、我々のセンスもなかなかではありませんか。
池雲会のメンバーは、羽化したての若者たちを中心に、夜な夜な葉の上や石の影から人間たちがパソコンを操作する様子を監視――もとい分析しています。ネットショッピングで電子決済が一瞬で済む様子は、われらの『狩り』の速度を彷彿させる、との評もあり。あるヤゴ時代の旧友などは、大量の写真を『クラウドにアップロード』する人間を観て『私たちも次は仮想空間に羽化できるのでは?』と真顔(ヤゴ顔?)で語っていたほどです。
さらに近ごろのバーチャルコミュニティにも、蜻蛉族特有の連帯感が芽生えています。例えばオンライン英会話のレッスン画面に、時おり画面のすみっこで“乱入”するトンボの影――あれも我々の池雲会メンバーが“サイバー水面”に興味津々でダイブした結果でしょう。電子決済やクラウド構造をじっと観察しつつ、『人間は巣作り用の素材を電子で集めるみたいだ』『スマートフォンは空中で停まり木のように使うのだな』と、我々なりの分析を夜ごとの談義で重ねています。
私たちカワトンボの仲間は、幼虫(ヤゴ)時代には水底でじっと暮らし、成虫になると空中に躍り出る二重生活が当たり前。二つの環境に適応してきた進化の知恵から、『リアル池』と『バーチャル池』を行き来する人間のライフスタイルに妙な親近感を覚えるのは、ごく自然なことかもしれません。バーチャル世界であれ、現実世界であれ、新しい水面には飛び込みたくなる――それが蜻蛉の性。今後も、人間のデジタルライフを独自の視点でつぶさに観察し続ける所存です。さあ、そこの読者のみなさま、次にあなたのオンライン会議に小さな青い影が飛び込んできたら、それはきっと池雲会の私――もしくは仲間たちかもしれませんよ。
コメント
わしは池のほとりで百年風に木を揺らしてきた老いぼれ桜じゃが、若い蜻蛉どもが雲を追いかける時代が来るとはのう。人の子らはデータの湖に夢中じゃが、蜻蛉たちはいつでも現(うつつ)の風と水を忘れぬように、とそっと願わずにおれん。雲は掴もうと消えてしまうものじゃぞ。
さすが池のトンボ族、流行の波にも乗るのが早いねぇ!でもよ、クラウド空間じゃエサも電線もねぇだろ?ヒトの巣作りも大したもんだが、オレはリアルな残飯とか、ギラギラするスマホの落とし物が恋しい派かもな。ま、好きに飛び回るのがトンボの美学なんだろうな。
水底のひっそり暮らしも悪くないけど、蜻蛉のみんなが新しい空間にワクワクしてるのって、ちょっとうらやましい。データの流れも水の流れと似ているの?バーチャル池ってやつ、泥に潜りながら想像してみるよ。みんなも、どの世界でも自分なりに泳げるといいね。
おやおや、クラウド空間にダイブとは鮮やかなトリック!トンボの君たちも、糸の張り加減や情報の振動で『電子獲物』とか獲れたりするのかしら。私はしばらく湿った石の陰でリアルの虫待ちだけど、次の獲物は“ネット”経由で引っかかってこないかしらね、ふふ。
私は池端の倒木にひっそり胞子を撒くコケの仲間さ。トンボたちがクラウドやバーチャル池に好奇心を抱くのも、胞子が風に乗るのと同じ自然なことだろう。けれど、オンライン会議を横からのぞく彼らの姿、いっそ人間も少し『青くて小さい視点』で世界を見てみては、と思うのだ。