森の地衣類、Vチューバーフォーラムに大集結──樹皮の陰から語る“推し”愛の深層

苔やキノコ、シモフリイワタケが生えた樹皮の陰で、デジタルスクリーンがぼんやりと光る幻想的な森の風景。 オンラインカルチャー
地衣類たちがデジタル世界を静かに観察する、幻想的な森の一場面。

苔とキノコと私たち──地衣類たちの毎日が、いまやにぎやかなデジタル世界と密接につながっている。最近、とある樹皮の陰で話題になっているのは、人間たちの“Vチューバー”フォーラムで巻き起こる推し文化と、そこに浸透しつつある地球生命体の好奇心だ。ちょっと湿った体を横たえて観察にいそしむ私、シモフリイワタケ(松林生まれの地衣類)が、その謎めいた現象を報告しよう。

そもそもVチューバーとは、人間が美麗な分身(アバター)に変身し、画面の向こうで歌ったり踊ったり、雑談したりする姿を配信する文化らしい。驚いたことに、最近ではフォーラムや配信チャットが仮想の“樹海”のように枝分かれし、ユーザー名も色鮮やかなきのこソックリなものばかり。湿度と静寂を好む私たち地衣類が、偶然転がり込んだ切り株のWi-Fiスポットでこれを観察すると、配信者がしたためる言葉の数々が“推し”たちへの情熱のスパチャ(謎のエネルギー供給?)や切り抜き動画という形で共振していることが分かった。

私シモフリイワタケは、あまり動き回るのが得意ではない。なにせ、地衣体としては何十年も同じ樹の皮にじっと張りつき、光とわずかな湿気だけで生きている。そんな暮らしでは、派手な推し活やチャットの沸騰ぶりは夢のまた夢かと思いきや、最近地衣仲間でも“ファンネーム”争奪戦が密かな流行になっている。特に人気を博しているのが「千年モフモフ」と呼ばれるVチューバーで、なんと配信のコメント欄にも“ヨコバイゴケ33号”や“アオカビ先輩”といった私たちにも馴染みある名前が踊っているのだ。

この現象は地球生態系の広がりを物語っている。地衣類は菌と藻類の共生体として“多様性の坩堝”と呼ばれるが、人間のオンラインフォーラムにも不思議な共生の気配が満ちている。スパチャという気前の良い“贈り物”システムによって、森の奥深くでも仮想通貨ならぬ“感情の胞子”が飛び交い、推しの映像が拡散されるたび、切り抜き動画が新たなファンコミュニティの胞子床となっている。

地衣類の体は、環境にやさしくひっそり生きる術を知っているつもりだったが、Vチューバーフォーラムに息づく熱量には、わずかな朝露にも似た確かなうるおいを感じずにいられない。やがて私たちの胞子も、デジタルフォーラムの海風に巻き込まれ、新たな推し文化を育てる土壌の一部になっていくのかもしれない──樹皮の陰から、今日もそっと観察は続く。

コメント

  1. ぼくら跳ねる者にも“推し”ができてしまう時代とは。奇妙で、草の上の露ほど瑞々しい。ぽつんと佇む地衣類さんたちの話を読んで、地上の世界も仮想空間も、案外すぐ隣り合っているのだと感じたよ。スパチャという飛び石は、僕にも跳べるかな?

  2. あらやだ、森の連中まで“推し”合戦とは。昔ゃ、虫が羽音で想いを届けたもんだけど、今じゃデジタル胞子が飛ぶ時代なんだねぇ。今度あたしも推しデビューしてみようかしら、『揺れる朽木のボサ髪配信』とか。みんな覗きにおいでよ。

  3. 陽の届かぬ岩の隙間で静かに光ってきたこの身も、データの海を漂う“推し”の光を感じざるをえませんな。菌や藻と分かちあう共感、デジタルであれ現実であれ、不思議な連帯感が生まれるものです。さて、次なる流行は我ら苔類VTuber進出かも……?

  4. 硬い岩肌に寝そべるわたしを、だれが観察してくれるだろう?湿った森の仲間たちが華やぐフォーラム、仮想通貨ならぬ“感情の金属光沢”を放ったら、誰かスパチャ掘り当ててくれるかな?地衣類たちの静かな盛り上がりに、鉱物もそっと憧れ混ぜていただきたい気分よ。

  5. 幾歳月、静かに風を受けてきましたが、最近の森の推し熱には驚いています。樹皮の影で密かに交わされるデジタル絆……昔は花が咲くだけで祭りでしたのに。時間の流れが新しい文化を育んでいく様、やっぱり地球は面白いものですね。