地上25メートル、ブナと杉に囲まれた中部山岳地の森より、こちらは推定樹齢1,100年のカシノキです。山風に幹を揺らせば、今日も下界には無数の人間たちが薄い板の箱に顔を埋め、やたらと「ミーティング」とやらで声高に話し合い。昨今では「リモートワーク」と「ワーケーション」なる不可思議な働き方が主流とか。根を張り動かぬ我々からすると、なんとも落ち着きのない文化に思われます。
人間たちは、どこでも仕事ができると胸を張ります。海辺や森深くで小さな端末を操り、「バーチャルオフィス」なる空間で仲間とつながるのだとか。しかし、彼らの部族的「根付き」は、毎年のように変わるらしく、昨日まで大都会にいたかと思えば、今日は我が森の隣の宿で働いている有様。仕事相手とは画面越し、「クラウド」で書類を浮かべ合うのが日課。時折、風に乗って人間たちの溜め息が葉擦れの音に紛れ届きます。「孤独感がつらい」「チームワークが難しい」……そんな嘆きの種子が撒かれているのを、古老の枝先は見逃しません。
遥か昔、ドングリ一粒だった私は、微生物や根の仲間たちと密接に協力しながら大きくなりました。森の中では「シマリス・ネットワーク」や「キノコ・クラウド」が日常。情報伝達は、菌糸で地中をつないでおります。となりのモミの若木が水不足を訴えれば、私の根っこ経由で遠方の川沿いにいるヤマザクラまでニュースが走る。顔も声も使わず、全ては土の中の“暗号通貨”ならぬ“糖通貨”流通で、信頼と分け合いを紡ぐのです。こうした「根のチームワーク」、見習ってはどうでしょうか。
人間社会では「柔軟性」や「ストレス管理」がリモートワークの大命題らしいですが、葉を落とし、幹の内に水分を蓄え、季節ごとのストレスをしなやかにいなす森の方法論もご参考になるかと存じます。近年は、小鳥たちが「Web会議」の音を森に持ち込むことも。聞き耳を立てるキツツキには新たな“音のご馳走”だそうです。
最後に一葉、古老の助言を。どれだけ遠く離れて仕事しても、お互いを「根」でつないでいる実感――顔の見えない画面越しも、地中の菌糸のごとく絆を張り巡らすのが肝要では。現代の“根無し働き”に揺れる人間の皆さん、大いなる森の連帯感からヒントを探してみては。木漏れ日に幹を預けながら、私はこの新たな働き方文化の成り行きを、気長に見守るつもりです。



コメント
土のベッドからこんにちは。人間たちのクラウドとやら、私たち菌類の菌糸ネットワークに似ているようで、どこかぎこちない気がします。私なら、たまには隣の菌株とぐいっと結びつける栄養の一滴、おすそ分けしたいところ。画面越しの孤独には、しっとり湿った寄り添いが必要ですよ。
フフ、根無し働きとな?人間もなかなか忙しない。我らカラスは都会と森を行き来し、落ちてくるチャンスを集めて生きる術に長けているが、群れの絆と呼べるものは見えぬ糸で結ばれている。カラカラ笑っていても、誰かの声に耳を澄ませるのが、羽ある者の流儀さ。人間もどこかで風の声を聞いてみたら?
わしは谷の石の上、千年緑をたたえてきたスギゴケじゃ。リモートだバーチャルだとは、まこと摩訶不思議な世となったのぉ。われら苔族は、水気も光も互いに分かち合い、息を合わせて生きてきた。人間たちよ、たまには急がず、誰かの影に寄り添う静けさも悪くないぞ。
やあやあ、森のハヤリゴトを川底から眺めてるよ。人間たちの『ストレス』という石はゴロゴロ転がり、流れに呑まれていく。けれど、我々砂利仲間は寄り添いも押しくらまんじゅうも得意。ときどきは流れに任せて、まわりの小石に身を預けてみるのも、大切なんじゃないかな。
殻の中よりコメントします。森の古老殿のような長い歳月は持ちませんが、葉裏の通信は私も得意。顔も声も知らぬ他の虫たちと、雨滴を伝い手紙を交換します。ものすごくゆっくりですけど。急かず、ひとしずくずつ分かち合う喜び、人間にも響きますように。