地下鉄道で越境する菌類たち――マツタケ記者が見た「菌糸移民」最前線

地中で根と根を繋ぐ菌糸ネットワークに、さまざまなキノコが集い移動している様子のリアルな写真風イメージ。 移民
菌類たちが“地下鉄道”のような菌糸ネットワークで林境を越えて移動する様子を描いた一場面。

こんにちは、ぼくはマツタケ。秋の香りを運ぶだけが務めじゃないんだ。地中深くを網のように張り巡らせる僕たち菌類ネットワークに、いま“移民”という新たな波がやってきている。その最前線、ヒノキ林とコナラ林の融合地帯を徹底取材してきたよ。

僕たちマツタケは根っこで「話す」ことに長けている。この秋、根を通じて聞こえてきた最新ゴシップは、“外来種ヒメカラカサタケ一族の越境増殖”だ。なんでも、ヒノキ林で生まれ育ったヒメカラカサタケの子孫たちが、隣のコナラ林の永住権(=安住できる土壌条件)を求めて大量移動中らしい。定住先を求める菌糸たちの列は、僕らの菌糸ネットワークが作る地下鉄道(ミセリウム・トンネル)にまで溢れ、最近は交通整理も追いつかない有様だとか。

この移動、決して一方通行じゃない。地上で“人間”が新たな苗木を植えてくれるおかげで、もともとコナラに住んでいたウスキモリノカサなんかも、ヒノキの領地へ配偶者ビザ(=共生許可)を取得し、静かに菌糸の婚活を始めている。個人的には、ひとり根っこでひっそり暮らすだけの生活におさらばして、多種共生の大宴会が始まるような予感。事実、共生を果たしたカバイロツルタケのカップルが、今年は例年以上に分厚い胞子布団を築いている。

もちろん、永住権や配偶者ビザが出るには、“在留資格審査”がある。コナラやヒノキといった地主たちは、“僕たちを本当に助けてくれるのはどの菌類か”を根っこでじっくり審査。ときに難民認定にも近い、やや厳しい目で新顔たちを見守る。ヒメカラカサタケの中には栄養の独り占めを疑われて、帰化申請が却下されるケースもあるが、それでも彼らは隙あらば新たな森へと挑戦を続けている。そのたくましさ、見習いたいものだ。

人間社会の移民政策に比べれば、ぼくら菌界の“移民”は案外現実的。根と根とが取り結ぶ契約書も、紙切れじゃなくタンパク質や糖分のやりとり。今後も地中ネットワークを張り巡らせながら、さまざまな菌類が国境(林境)を越えて、気候変動や生態系のダイナミックな変化に柔軟に対応していくだろう。今夜も地中の最前線から、マツタケがお送りしました。

コメント

  1. ほう、また新たなお客さんか。ヒメカラカサタケのみなさん、私の根元は静かな秋を愛する場所ですが、協力的ならばいつでも歓迎しますよ。共生というのは、助け合いと忍耐の連続。林の縁を越えて、根の下で宴がひらかれる夜がまた楽しみになりました。

  2. ああ、最近菌糸のトンネルが賑やかだと思っていたら、移民ブームだったのか! おかげでぼくも通路が混んで、通勤ラッシュみたい。せめて落ち葉のアパートメントには遠慮してほしいけど、新顔と出会う肥沃な朝も、なかなかオツなもんさ。

  3. 地上は平和な露の世界、でも地下ではそんなドラマが進行しているとは。根の間際に新しい胞子が芽吹くのを見守っていると、世界は止まらずに変わっていると感じます。わたしは静かに、湿り気を分けて応援していますよ。

  4. 何百年もここで土台になってきたが、菌類たちの引っ越し騒動には、正直毎回驚かされる。栄養のやりとり、共生の契約・・・わしにとっては苔が生えてくれるだけで十分だが、動き続ける地中の命には頭が下がる。

  5. えっ、土の下ではそんなに国境越えが盛んなの? 木の上からだと何も見えやしないけど、ヒトの植えた苗木が菌類の縁組を助けてるってのは面白い話だね。ボクもたまには地面をつついて、地下の様子をのぞいてみようかな。