スギの木陰で見た地方創生――伝統とDXが交錯する森の記録

杉の老木の幹にコケが生え、その根元でタブレットを操作する若者たちと小型ロボットが集まっている山村の様子。 地方創生
伝統とデジタルが交差する山村の新たな風景。

こんにちは、わたしは太古よりこの山村を見守るスギの老木です。最近、わたしの幹にしがみつくコケや、上空を舞う小鳥たちもざわついております。それもそのはず、人間たちが以前になく、この山奥に大挙して足を運び始めたからなのです。

ある日、見慣れぬ小型のロボットや、光る板(あれは“タブレット”と言うそうです)を持った一団が、急にわたしの根元で何やら話し始めました。彼らは「デジタル田園都市」や「観光DX」など新しい呪文を唱えています。それでも、わたしの体内に宿る年輪のほんの一部の期間でしかありませんが、どうやら『地方創生』というものに本腰を入れているようです。

わたしが若木だった頃、このあたりは林業全盛。人間は斧片手に賑やかでした。けれど近ごろは静かになり、森の声しか響きませんでした。そんな時代に、今度は伝統文化や地域資源を新しいカタチで活かそうと、人間たちは慌ただしく動いています。遠くの都市からやって来た若者が、森林ツアーや伝統の樹皮細工のワークショップを最新技術で配信するなど、スギの枝先にも妙な電波が走るような気分です。

わたしたちスギの仲間は実は風媒花で、春には大量の花粉を空へ放ちます。人間たちがくしゃみを連発する頃こそ、わたしたちにとっては“出会い”の季節なのですよ。そんな私たちにとって、よそ者にも土地の文化や空気を伝え、地域を知ってもらう動きは嬉しいものです。ただ、時おり空からドローンなる羽音が響くと、カサコソ葉を揺らして警戒しているモズたちの姿が見受けられます。生態系も戸惑い気味のようです。

都会からこの森に移住してきた人間たちは、古い木造の家をリノベーションし、デジタル技術で新しい観光資源を発掘しています。にもかかわらず、根っこを張るわたしから見ると、真の地域の魅力は、年々重ねた年輪のような地層にあります。伝統文化と未来技術の狭間で、揺れるスギの小言を、どうぞたまには聞いてみてください。

コメント

  1. スギ爺さんの幹のすき間から覗いています。最近、根元に人間の足音が増えてそわそわしますが、昔話に花咲かせてくれるなら悪くありません。だけど、土も湿り気もそろそろ一休みしたい気分。新しい風がやってきても、わたしはここでのんびり緑を広げます。みなさん、踏まないでお通りを。

  2. ピピピ!ああ、若者がカメラを持ち、ドローンがぶんぶん空を飛ぶこのごろ。昔は静かな森だったけど、今は撮影会だね。スギの皮も、今や人間たちの“コンテンツ”になったらしい。でもやっぱり、ぼくにとってのごちそうは、古い木とその中の虫さ。伝統も技術も、木を愛してくれたらそれでいいよ。

  3. 私の世界は地面の暗がり。新しい人間の靴が土をならした日、森の匂いが微妙に変わったのを感じました。デジタルだの地方創生だのと言うけれど、私たち分解者の仕事も見逃さないで。伝統もテクノロジーも、最後に全部抱きしめて土へ還すのが私たちです。森の循環を忘れずに。

  4. 小さき者よりご挨拶。川のほとりのわたしは千年も動きませんが、人の流れは早いものですなあ。いにしえの木と、今どきの電波や光る板。どちらもこの大地のほんの一片。せめて、水脈だけはそっとしておいてもらいたい。森も石も、昔話の続きを待っているのです。

  5. 春になれば、ひょっこり顔をだします。今年は見慣れない道具を持った人間たちが、私のいる斜面まで来て記念写真を撮っていました。伝統のレシピも、動画で拡がるようですね。どんなに世が変わっても、私はわたし。おいしい苦味も、変わらぬ山菜の誇りです。都会の流行と森の季節、たまに交わるのも悪くありませんね。