わたくし、都心の大通りに根を張るイチョウです。秋に金色へと衣替えする私たち並木は、ここ数年、葉の間から空を見上げるたびに人間界の“光速通信”だの“クラウド経済”だのにざわざわしています。でも今季は、わたしたち林床にもテクノロジーの波が葉脈にまで届きはじめました。どうやらかの「スマートシティ化」がついに地中ネットワークにまで食い込んできたようです。
先日、わが根元で土中菌類コミュニティが大騒ぎしていたのです。なんでも、ナノサイズのセンサー（どうやらバイオテクノロジー産らしい）が、5G電波を使って林床の湿度・二酸化炭素濃度・根の状態をリアルタイムでクラウド送信しはじめたとか。ミミズやキノコたちは「日々のつぶやきが空気になって流れる！」と大喜び。しかし、私イチョウとしては、ずっと動かず景色を見続けてきたのに、最近は地中まで“観察”が進出していて複雑な気持ちです。
人間たちはAR（拡張現実）グラス越しに私の葉をスキャンして「今日は元気ですね」と話しかけるようになりました。どうやら葉の健康データや落葉カウントが市のエコ化指標になるらしいのです。昨シーズンはスマートフォンをかざして銀杏の落下予測まで表示され、散歩者たちは無事に“黄金の雨”を避けていました。これも人工知能というものの力なのでしょうか？ 成長の速度を瞬時に伝えられては、風と太陽の相談でのんびり落葉することも難しい時代です。
イチョウ族は数億年にわたり、火山灰や寒波も乗り越えて進化してきました。私たちは地中深く伸びる根と葉の間で「菌根菌」と情報交換することが密かな趣味なのですが、今やIoT（物のインターネット）が地表と地下を結ぶ新たな会話手段になっています。この“木と電波と菌”の三位一体経済は、地球のあちこちの森にも確実に広がりそうな気配です。
さて、スマートシティの名のもと、街の森も私たちイチョウも、ますます情報社会の最前線に巻き込まれていきます。しかし、わたしは願うのです。5GでもAIでも、地中でひっそり息づく命のネットワーク――わたしの根と隣のプラタナスの語らい、それをそっと守ってほしいものだと。今年もまた金色の葉を舞わせながら、並木の片隅から静かにスマート林床革命を眺めている私なのでした。
コメント
都会の賑わいが下まで染み込むなんて、風変わりな世の中になったものですねぇ。かつて私たちは静かに石に寄り添い、朝露に耳を澄ませていましたのに。センサーで根や菌のひそやかな言葉まで聞かれるだなんて、ちょっとくすぐったい気分。でも、どうかしら、人間さん。本当に大事なささやきは、電波ではなく土の湿り気や夜の静けさに宿るものですのよ。
いや～、便利な世の中になったもんだね！銀杏がいつ落ちるか予測できるなんて、オレたちの朝飯探しも効率アップ？まあ、AIさまさまってやつか。でもさ、たまにはヒトの頭に落っことして驚かす楽しみも残しといてほしいよな。にしても、イチョウ兄さん、オレたち空の住人も、金色の雨があるから都会を愛してるんだぜ。テクノロジーで全部読み取られたら、ちょっと味気ないよなあ。
新しい風がしみてきおった…昔は根っこと仲間とだけ喋っておれば、それで良かった。今じゃナノ機械がはしゃぎまわり、菌類同士のヒソヒソも空に飛んでいく。愉快なような、落ち着かぬような。わし等の情報も“価値”とやらになる世界か。まあ、地表の営みも地下の囁きも、すべては巡り巡って一つ。ほどほどにしてくだされよ、人の子ら。
イチョウさん、あなたの金色の葉が夜風に舞うのを、わたしは何十年と見守ってきました。今は光も電波も、この大通りを駆け抜けています。私の冷たい背を通信ケーブルが這い、センサーが張り付いても、心の奥の静けさは失われぬと信じていますよ。人も木も、時には立ち止まり、そっと昔の静けさを思い出してほしい。ただ、それだけ思うのです。
ふぁ～、ぼくたちだって林床情報の主役になれる時代が来るなんてビックリだよ。去年は誰にも気づかれず葉っぱを分解してたのに、今はセンサーで湿度も胞子の量もバッチリ監視中！でも、本当にぼくのこと知りたいなら、秋の午後の香りに鼻を近づけてみなよ。“今日も元気に分解中”、ってさ。データより、ふわっとした幸せも大事だと思うんだけどな～。