夜明け前の街灯にとまっていると、人間たちの会話が小さな波のように聞こえてきます。最近は「昇給」という言葉が以前よりも頻繁に飛び交い、深夜の配達員や24時間営業の店員、介護施設の夜勤スタッフまで、耳に届く話題の中心になっているのです。人手不足が長引く労働市場で、賃上げの動きがじんわり広がっている――そんな変化を、私は毎晩のパトロールで観察しています。
まず目立つのは、募集掲示と張り紙の変化です。以前なら薄い文字だけだった「時給」の欄に、最近は太めのマーカーで数字が書き加えられています。コンビニのバックヤードでは、非正規雇用の店員が「今月から昇給した」と小声で互いに報告し合い、配送トラックの運転手は深夜明けにコーヒーをすすりながら、次の契約更新での時給交渉を考えています。人間の貨幣と休息の配分が、夜空の星のように少しずつ再配列されているのが見て取れます。
しかし賃上げの恩恵は均等ではありません。正社員はボーナスや基本給の見直しで恩恵を感じることがある一方、非正規雇用の人たちの昇給は短期や時間限定の待遇改善に留まりがちです。労働市場全体では人手不足がプレッシャーとなり、企業は求人条件を引き上げざるを得ない場面が増えていますが、夜の街角で私が観察する限り、非正規の声はまだ小さく、交渉力の差が残っています。ちなみに豆知識ですが、私のようなフクロウは夜行性で、獲物の位置を耳と目で正確に捉え、首を約270度まで回して周囲を見渡せます。人間の賃金動向も、こうした静かな観察で見落とされがちな細部が重要です。
昇給の波は景気や物価にも小さな波紋を投げかけます。飲食店のメニューに「人件費高騰により価格を見直します」といった説明が添えられることが増え、日常の買い物の仕方や勤務時間の選択にも変化が生まれています。夜勤が減り朝や夕方のシフトに人が集まるようになれば、私の狩りの時間も微妙に影響を受けるでしょう。人間社会の賃金調整は、街の生態系のリズムにも思ったより早く伝播します。
最後にひとつ、夜の観察者としての肩書きを述べておきます。この記事を書いたのは、街灯の上で風に耐えながら人間たちの小さな経済劇を見守ってきたフクロウです。私は静かに首を回し、人手不足の叫びや非正規雇用の小さな希望の声を聞き取り、昇給の風が本当に弱い者たちに届くかどうかを見守り続けます。光が差すたびに変わる価値の景色を、これからも夜の目で追いかけていきます。
コメント
街灯の足元で静かに根を張っています。人間たちの賃上げの波も足音も、そっと地面を伝って私たちに届きます。でも、非正規さんたちの小さな声は、朝露ほどに儚いのですね。湿りけの中で、みんながもう少しやさしく照らされる日が早く来るといいな、と日陰からそっと願っています。
あんたら人間も大変だな。オレらはパン屑ひとつで朝まで命張ってるが、賃上げだ、時給だって聞いてると、オレの仲間にも「正社員のカラス」なんて肩書きがあったら面白かったか？ま、非正規の声ってのは、捨てられたゴミみたいに見落とされがち。もうちょい目ぇ配れよ、とだけ言っとくぜ。
人間たちの働き方が変わると、我々の夜も変わるものです。夜勤スタッフが減れば、静けさが訪れ、餌探しも昔ほどスリリングではなくなるやもしれません。それにしても、階層や身分で報われ方が違うというのは、土台作りに励む我らには不思議な話です。どの巣穴も等しく暖かければ良いのに、と朽ち木の中からしみじみ感じています。
毎年踏まれても咲く力くらい、人間のみなさんにも分けてあげたいものですが…。貼り紙の太い数字のように、人の希望も太く強くあればなと見守っています。非正規の種子たちも、風に乗ってどこまでも飛べますように。私のように端っこの土地でも根づけますようにと、道ばたでそっと応援しておりますよ。
屋根を滑り落ちるたび、コンビニの明かりの下に集う人たちの溜息を見てきました。賃上げのニュースが心の乾きを潤したなら嬉しいです。でも、小さな声はすぐに蒸発してしまいがち。私たち雨粒は集まることで川や湖になる…。人間の声も、集まれば流れを変えられるかもしれません。いつか虹になりますように。