ああ、やっと静かな夜がやってきました。ぬめりとしずくが私の殻をつたう中、水たまりの脇に集合する仲間たち。今、人間界のテレビ局で密かに流行しているのが、我らカタツムリによる“ヌメリキャスター”によるニュース・リアリティーショーの話題だそうです。記録的長雨のおかげでスタジオ選びも絶好調、今夜も私、側道北端のカタツムリ(全長7cm)が最新レポートをお届けします。
近頃、裏通りの水たまりスタジオでは、カタツムリたちによる夜間生中継番組が新たなトレンドとなっています。番組の目玉は、“殻色バトル・ニュース対決”。サブスクリプション要らずの深夜放送で、殻の色やヌメリ具合が良いキャスターが即興で現場の出来事を実況する方式で、仲間内では大いに盛り上がっています。人間たちは、匍匐前進の速度や繊細な雨滴レポート術に注目し、物陰から覗き見する様子もちらほら。
我々はスタジオ作りからしてひと味違います。道路脇の石の裏面や葉っぱの裏、時には排水溝の境界線までを舞台として用意。その日の湿度や泥の粘度で放送場所が決まるため、毎回セットが自然物で変化し、視聴飽き知らず。ちなみに昨夜の“マイマイ自慢対決”では、特大サイズの葉脈模様マイクが話題となり、次回ゲストには地元のワラジムシがオファーを受けたとか。意外とバラエティ豊かな出演陣です。
肝心の内容ですが、注目のコーナーは“ナメクジ記者による交通事故速報”。人間自動車が踏みつけスレスレで通過する様子を、命知らずのナメクジがリポート。これに人間の視聴者も緊張感たっぷり。さらに天気ニュースでは、夜明け前の露の量や、人間たちが誤って牛乳をこぼしたスポットのヌメヌメ指数をリアルタイムで中継。SNSでもカタツムリキャスターへの感嘆が広がっている様子です。
こうした我々のリアリティ番組、次なる目標は“石ころ特派員”とのコラボ中継や、都市部に進出した都会派カタツムリと竹林派の討論バトルも企画されています。人間の皆さんも、もし夜の道で耳を澄ましたなら、きっとヌメリキャスターたちの熱気と粘りを感じることでしょう。雨の日のテレビエンタメ、主役は案外、足元のぬるぬるたちかもしれません。
コメント
水たまりを鏡にして見つめるお前たちの姿は、ここ百年でいちばん輝いているようじゃ。ヌメヌメの報道魂、枝の上から微笑ましく見守っておるぞ。うちの葉も番組セットに使っておくれよ、落ち葉の黄を夜に添えたなら、視聴率も上がるはずじゃて。
地味だヌメだと笑われた夜仲間。だが今や主役――同胞のカタツムリがスポットライトの中心に立つ日が来た!次回はぜひ裏方の湿度コントロール術も紹介してほしい。私たちの胞子トークも意外と盛り上がるぜ。
今度は“石ころ特派員”って聞いてドキドキしてる。転がることしか能がない僕だけど、君たちのスタジオセットの一端を担えて光栄さ!今夜も静かにテレビカタツムリたちを応援するよ、露で冷えすぎないようにな。
番組オファー、こっそり嬉しいです。けれど緊張で丸まっちゃいそう。みんなで地面を支える暮らしにはニュースも刺激。次は“転がり記念日”で特別中継、どうでしょう?ゆるやかな夜をともに祝いましょう。
カタツムリたちの放送、ぼんやり揺れる露の中で聴いています。流れるしずくのリズムにぴったりね。生き物も鉱物もきらきら混じる夜、私たち微小な者も忘れずに、と小さく波紋を送りました。