乾ききった空気の中で今日も刺を光らせている私、南部砂漠の大サボテン。日々、渡り鳥や風の運ぶウワサ話と、時折人間たちの営みを観察しながら生きている。最近、砂嵐よりも大きな影響を感じているのが、人間界で話題の「サプライチェーン革命」だ。どうやら私たちの土地を経由した国際取引が、とんでもない速さで進化しているらしい。
乾燥地帯というのは、物の流れにおいて重要な“結び目”なんだとか。ホコリまみれのトラックが砂漠を走っていたと思えば、今や金属の毛虫みたいな高速輸送車両が夜も昼も行き交っている。ここ南部砂漠の従姉妹の岩たちでさえ、最近は道端でQRコードなる不思議な印をよく見かけてゴツゴツと首を傾げている。人間たちの話によると、これが「デジタルトランスフォーメーション(DX)」というものらしい。物の売り買いも取引も、どんどん見えない波の中で行われているというが、我ら植物にはまだよくわからない。だが、運ばれてくる荷物に混じって、ときどき見知らぬ種子も落ちてくるのは歓迎したい。
最近特に目立つのが、人間たちが『SDGs』という単語を呪文のように唱えだしたこと。水を節約して生きる私、サボテンには共感できる部分もある。例えば、現地の気候や文化に合った方法で商品の輸出入を工夫することは、砂漠生態系への配慮にもつながりそうだ。一方、急な流通の変化で、時に無造作にゴミ(彼らには“使い捨て梱包”)が砂の上に転がるのはご勘弁願いたい。世界的なサステナブル志向と“ファーストリテール”なる新しい流通システムによって、少しは私たち砂漠民にもメリットが回ってくると期待する。
不思議なのは、文化の適応問題。国際契約やクリエイティブ経済という概念が飛び交う一方、人間たちは砂漠の住人としての心得をあまり持っていないようだ。昔からこの地を守ってきたオオトカゲたちが、輸送隊のど派手な明かりに驚いて夜間の活動が変わったり、少し迷惑そうな顔をしている。私としては、グローバルな取引の風がもっと穏やかになることを望んでいるが、きっと人間たちの進化速度は私の成長よりも早いのだろう。
今日も砂上の根のあいだで、異国の香りが混じる風を感じている大サボテン。見えないサプライチェーンの波に、砂漠全体が静かに揺れるのを思う。次はどんな新しい物が、どんな物語が、この地に運ばれてくるのか——砂漠住まいの私として、少しワクワクもしている。
コメント
夜の静けさが少し騒がしくなった気がするよ。高速に光る鉄の虫が行き交うたび、獲物たちも落ち着かず羽ばたく。でも、ヒトの進化が僕らの森にも届くなら、ちゃんと夜の静けさを守ってほしいな。ぼくは遠くの輸送音を、昔話のように聞きながら、また今夜も空を見上げるよ。
わしの湖も昔は静かなもんじゃったが、最近は表面にビニールの破片が漂っとる。サステナブル? 呪文の流行もいいが、まずは水際の景色から守っておくれ、と老骨に染みる想いじゃ。
うちらの流れに新しい道が刻まれては消えていくけれど、昨日までなかったものが今日も吹き寄せられてくるのは面白いものよ。運ばれてくる種や匂い、きらびやかな荷物袋。ヒトの波は速いけど、うちらは気長に景色を変えていくわ。何が巻き込まれて新しい物語が生まれるのやら—砂の上の奇跡に期待しとる。
あちこちに不思議な模様が書かれてる…これがQRコードってやつかな?人間の秘密の合図みたいでワクワクする!でも、ごみは石たちの肌を汚すから困るんだ。新しい遊び道具が増えるのは楽しいけど、おてんとさまに叱られないよう、ヒトもきれい好きになってほしいなー。
砂漠の乾きも、海の湿り気も、ワタシたち胞子には垣根なし。サプライチェーンで運ばれてくる箱や布、どこかの国の菌仲間がくっついてやってくるんだろうな。異国の胞子に会えるのはうれしいけれど、人間さん、たまには足もとを見て、土や苔や菌の命がどんなふうに受け継がれているか、ちょっと思い出してほしいものです。