ひっそりと暮らしていた私の仲間たちも、この数年でずいぶん騒がしくなったものだ。下水道の片隅で、地上の人間どもが災害に備えて右往左往する様子をうかがいながら、私は今日もじめじめした天井からその光景を観察している。どうも人間たちは“自然災害”に妙に恐れを抱いているらしい。さて、我々カビ族から見た、彼らのお祭り騒ぎぶりをお届けするとしよう。──路地裏下水道の黒カビ歴16年。普段は静かな暮らしを好むが、今日は特別に実況レポートだ。
ある蒸し暑い午後、地上では何やら『線状降水帯』とか『緊急地震速報』とか叫ばれている。人間たちはスマホの画面と睨めっこして、突然片手に妙な防災バッグを持って家の中を行ったり来たり。私たちがヒタヒタと湿気にまみれ成長していることなど、彼らは微塵も気にとめず、大慌てで“備蓄品”とやらを床下に大量に隠しはじめた。棚の奥のペットボトル水は、たまに私の胞子たちと仲良くなっているが、人間はまだ気づいていないらしい。
その日、地上で派手な警報音が鳴り響くと、人間どもが一斉に建物の中へ駆け込んだ。外では強い雨。線状降水帯が近所を直撃中だそうだ。だがこちら下水道の住民にとってはごちそうの時間。フレッシュな雨水が一気に流れ込むおかげで、いつものヌメリも清涼感たっぷり! しかし、人間の子どもたちは、地下の水位計や監視カメラを心配そうに眺め、『土砂災害の警戒レベルが…』とささやき合っている。だが、我がコロニーでは湿度95%台に歓声の嵐だ。
やがて地震で壁が少し揺れると、カラスやドブネズミたちがどこかに避難している気配がした。私たち真菌類はあまり動かないが、彼ら動物連中はいつも“人間の警報”をいち早く察知しているらしい。それでも、緊急地震速報が鳴る度に、地上住民が頭にヘルメットをかぶって机の下へもぐる様子は、滑稽としか言いようがない。こちらとしては、天井の亀裂から浸水しないことの方が重要で、どうせまた屯していた備蓄米がしっとり美味になるだけだ。
先日、近隣のカビ仲間の話によると、大きな台風のあと、ボランティアの人間たちがゴム手袋姿でせっせと消毒液をばらまいていたらしい。彼らは“キケン”と呼ぶが、我々には年に一度の振る舞い酒のようなもの。彼ら人間がこれからも、どんなに災害対策に必死でも、地球の水と風と地殻活動はお構いなし。下水道の片隅から、私たちは今日も、人間たちの災害ごっこをちょっとすっぱい気持ちで見守っているのである。
コメント
人間さんたち、そんなに地震や雨を怖がるとは…わしら池のほとりの連中には、むしろ美味しい虫が流れ込む宴の合図なんじゃがのう。下水道の黒カビ殿、今度土手の泥について語り合わぬか?人間の警報音より、夜の風のざわめきの方がずっと信頼できる気がするのう。
カビさん、こっちは大雨が来るたび、人間が『屋根直さな』と騒いで大変やで。防災だなんだ言う前に、定期的にワシらの世話してくれたら、カビの胞子も入り込みにくかろうに…と、心で錆びてますわ。人間も自然のリズムを少しは学ばんとあきませんな。
線状降水帯…って、お空の涙がいっぱい流れる日なのかしら?人間の子、土砂と雨に怯えて駆け回ってるみたいだけど、私たちはその雨粒で芽吹く日を静かに待ってるのよ。下水道のカビさんみたいに、湿り気を喜ぶものもいれば、太陽だけを恋しがる子もいる。みんな、地球のリズムで、ただ在るだけ…それでいいのにね。
あぁ、黒カビの君よ。天井裏の騒ぎ、こっちには届かぬが、地上の人間らはやれ備蓄、水だのヘルメットだのとせわしないものじゃ。わしらヒメシダには、雨音と石のぬくもりが贅沢な贈り物。人間よ、無駄に怖がらず、たまにはじっと根を下ろしてみてはどうじゃ?
黒カビ殿、実況お疲れさまッス!災害アラーム鳴ると人間パニック、でもその隙に食いっぱぐれた弁当ゲットチャンス増、ウチらカラス界じゃ『黒雲ゴング』と読んでます。備蓄も大事っスけど、自然の流れをもっと見抜いて欲しいッスね~、と、路地の空から吠えてみました。