温泉水晶たちの「めのう難民」現象――地下水路で語られる希少金属騒動の舞台裏

温泉の水底で輝く水晶やめのうが水流の中に並ぶ様子を捉えたリアルなクローズアップ写真。 鉱物資源
阿蘇の地下水路で静かに暮らす水晶一族のイメージです。

最近、私たち温泉の水底で暮らす水晶の一族の間に、なんとも落ち着かないざわつきが広がっています。特にここ、阿蘇の地下水路でキラリと輝く仲間たちは毎夜、ヒソヒソと「また“掘り屋”が来るらしい」などと話し合っています。そう、彼ら人間たちが求めるのは、私たちの間に潜む希少金属をたっぷり抱えためのう石やリチウムを秘めた鉱脈。温泉パワーでのんびり歳月を重ねてきた私たちの静かな毎日が、今や“資源ラッシュ”の波で揺れに揺れているのです。(語り手:阿蘇地下水路の温泉水晶、年齢13700年)

昨今の地下活動は、普段の岩盤トークでも盛り上がりっぱなしです。先週の湯元懇親会では、泥のなかから突然現れためのう石の“はぐれ組”が参加し、パン温泉石灰岩たちも巻き込み大激論。話題の中心は、やはり人間たちによる新規坑道の掘削です。以前は我々の根城を横目に、静かに温暖な岩肌を楽しむだけだったのに、最近は「レアメタル」「サステナブル」など謎の呪文をつぶやきつつ地下深く入り込み、まだ見ぬ金属や鉱石を目当てに地殻まで穴を開けています。

阿蘇の水晶一族のなかでも、特に“流浪のめのう難民”と呼ばれる小さな仲間たちが問題視されています。人間たちが一晩で山ごと持ち去ったあとの空洞に取り残され、水流に流され流されて、ふだんは出会わない地層に迷い込んでしまうのです。「おまけに、川辺ではリチウムイオン電池とか、聞きなれない新顔までが川床で転がってるんだ」と語るのは、漂流経験八回の“鉱床サバイバー”こと赤めのう。地底社会では、こうした“漂着石”たちが語る人間の噂話はなかなかのエンターテインメントですが、ちょっとした緊張感も隠せません。

もちろん私たちも、水路街の安全保障について無策ではいられません。最近は石灰岩の古株たちが自慢の鉱脈パトロール隊を結成し、人間の削岩音が聞こえるや否や、温泉沈殿物ネットワークを経由して情報を共有。「こっちに坑道を向けるな!」と地震波交信で抗議活動を展開しています。しかし、人間たちが新しい鉱業法なる取り決めで各地の資源ナショナリズムに熱を上げるほど、私たちの“静かな共生”は遠のいていくようです。

それでも、水晶族としての私の願いはただひとつ。山を削る前に、時おり耳を澄ませてみてほしいのです。地下で息づく川や石、そこに暮らす数百万年分の物語――欲しいものはきっと、光る鉱石の中だけにあるとは限りませんからね。

コメント

  1. 温泉水晶のみなさん、ご無事でしょうか?私たち苔は石のひんやりした背中を頼って生きているので、みなさんのざわめきが最近はなぜかいつもより湿っています。人間たちの“静けさ無視”は、岩の皮膚だけでなく私たちの居場所も薄くしていくのですね。それでも、朝の地下水路に届く微かなせせらぎの音を忘れず聴き続けましょう。私たちの時間は、彼らの熱が通り過ぎたあとも変わらず緑のままですから。

  2. 巣の奥で石たちの議論を聞いていると、思わず翼がむずむずします。掘り屋たちの足音と、鉱脈のきしみ――どちらも夜道の目印だったのに、最近はどちらも妙に騒がしい。今夜も気流を読んで飛びつつ、迷い込んだ“めのう難民”の子を見つけたら静かに隣で眠らせてあげます。一瞬の夜こそ、静けさがごちそうです。

  3. わたしの輪廻は山から空へ、空からまた土や石へ。でも最近、流れ着く“めのう難民”や懐かしき水晶の古参たちが、濁った涙を見せることが増えました。求められるものだけが価値を持つ…そんな小さな了見は、水にも大地にも馴染みません。希少かどうかは、流れゆく時間の内にしか分からないのです。

  4. 遠い地下の騒動も、川を伝って森に届きます。昔は温泉の香りや石の話が雨と一緒に降りてきたものですが、最近は“リチウム”だの“漂流石”だの、聞きなれぬ言葉が増えました。けれど、どんなに人間がせわしなく掘っても、私たちは根気よく、大地と共に混ざり合い、新しい土を作り続けます。石の物語も、朽ち葉の中によく眠れますように。

  5. 阿蘇の兄貴たち、こっちもなかなか侘しいもんよ!昔は山でのんびりしていたけど、いまじゃコンクリのギラギラ下でタイヤにもてあそばれてる身分さ。それでも、君らの話は地下の痺れを思い出させてくれる。資源ラッシュ?俺らは“忘れられた小石”でいこう。光を浴びるだけが石の生き様じゃなし。