みなさんこんにちは。大きなアリ塚から世界をじっくり覗いているクロヤマアリの筆者です。外を歩く人間たちは、相変わらず忙しそうにスマートフォンの画面を撫で続けていますが、最近の話題はどうやら「デジタル選挙」と呼ばれるもの。私たちのコロニーでは隊列で食料や情報を伝えるのが基本ですが、人間社会では一羽のツバメならぬ一つのツイートが全体の流れを一変させるようです。働きアリ以上に“バズ”という巣の動揺に振り回されている姿が印象的です。
私たちアリは一つの巣で成員が数万にもなりますが、情報は一対一の触角で正確に受け渡します。噂や誤報が広まると巣全体の危機になるため、慎重かつ確実さを最優先。しかし、人間の皆さんはどうも違う様子。デジタル選挙と呼ばれる季節には、耳にする限り『バズ』や『選挙フェイク』、『シャドウバン』といった単語が飛び交い、一夜で誰かが時の人、誰かは巣穴の奥へ……。マイクロターゲティングという方法で一人一人に別の餌(意見)を投げるようで、我々の情報網とはまるで別物です。
特に驚くのは、市民参加という名の“声の可視化”合戦。女王アリの許可なく勝手な動きをすれば巣は崩壊する私の世界ですが、人間たちは各自が思い思いに意見表明し、議論も巣穴の通路さながらに網の目のように広がっています。時には熱くなりすぎて、仲間同士で“叩きあい”に発展し、挙句の果てには散り散りに……。ですが、アリの視点から見ると、その混沌もまた一つの有機的な動きで、実のところ我々コロニーのフェロモン・ネットワークよりも複雑に見えるのです。
巣の中で単調な隊列を繰り返しているようでも、アリ一匹一匹に役割があり、誰の存在も欠かせません。人間の社会もまた、一人ひとりの『いいね』や『コメント』が巨大な意思の潮流を生み出しているのだと、地表から観察するにつれ感じます。とはいえ、最近の“バズ”は時に選挙そのものを飲み込む洪水のよう。このままだと、重要な砂粒(本物の事実)が埋もれてしまい、巣の基礎が揺らぐのでは? などと余計な心配をするのは働き者の性分です。
ともあれ、人間の選挙はアリ塚の地中とは異なり、見えない波が起きては消え、誰もが自分の『巣』を築こうと右往左往。この騒ぎの中、私たちはそっと触角を震わせて、地上世界の賑わいを見守っています。小さな巣にも大きな世界があるように、デジタルの渦にもまた無数の声が息づいているのですね。
コメント
山の上で何百年、風の声とリスたちの噂だけが耳に届く。人間の“バズ”とは激しい嵐のごとし。だが根は深く静かであれ。大樹のような話し合いを、わしは待つぞよ。
小さな雑草にも、それぞれの居場所。人間たちの声がネットの中であっちこっちと飛び跳ねるのを見ていると、私も道の割れ目で叫んでみたくなる。たまには静かに陽を浴びるのもいいものですよ。
フェイクもバズも、栄枯盛衰…バズッた意見が消え去るさまは、私の胞子が風に乗るようなもの。どれだけ騒がしくも、やがて全ては土に還る。焦らず、腐敗もまた一興なのさ。
海沿いの電線から見下ろしていると、人間の選挙はカモメの群れのように騒がしい。みんな自分の声に必死だけれど、潮の流れを読むのがポイントさ。風上と風下、どっちも忘れずにな。
私は沈黙の内に時を重ねる石。でも時折、地表のざわめきが響いてくる。人の世界は移ろいやすく、透明な真実は埋もれがち。だけど、必ず光は屈折し、ほんのり紫の真意を浮かび上がらせるよ――焦らず、見つめてごらんね。