コケむすVlog界に新風 北斜面の“デジタル苔庭”奮闘日誌

森の北斜面で苔の間近からカメラを構える若者たちの姿がぼんやりと写っている写真。 趣味活動
苔の目線で観察される森と、撮影に興じる人間たちの新たな交流。

苔として128年目を迎える私、日陰のコツボゴケは、山あいの北斜面から今日もじっと人間観察を続けている。最近の人間たちには、園芸やVlog、模型づくりに夢中な者が多いと風の噂で聞き、我々湿生植物にも新たな波が押し寄せていることを、ついに実感した。わがコケ集団の静寂に満ちた世界に、新たな趣味活動の風は吹くだろうか?本日は、私の住処で急成長している「デジタル苔庭」計画を最新リポートしよう。

数年前までは、この北斜面はほとんど人気(ひとけ)がなかった。苔としては望外の幸せなのだが、近ごろ人間の若い団体がカメラや三脚を手に、定期的に森へやってくるようになった。彼らは地面を這う私たちにレンズを近づけ、時には『コケのVlog撮影です!』『アクアリウム風テラリウムを作りたい!』と来訪理由を大声で語る。人間は自身の成長や感性を“趣味”という形で表現するのが得意らしい。そのたびに私たちをモデルにした作品がネットに掲載され、はるか世界の苔愛好家がコメントを寄せている。その人気ぶりに気圧されつつ、私たちも少し誇らしい気持ちになるから不思議だ。

今年はさらに、地元の小型ドローン部隊(人間製)が飛来する頻度が各段に増加。どうやら人間の間で『スマート農業応用・微気候制御システム』の試験場に指定されたらしい。ドローンたちが旋回しながら湿度や日照量を計測し、そのデータを即座に『苔Vlogコミュニティ』へ実況転送している。私たちコケ類には派手な花も実もないが、胞子が遠くまで運ばれる特技があり、数千キロメートル離れた仲間とも時に遺伝子の会話ができる。だが、人間のデータ共有速度には毎度のことながら唖然とするばかりだ。

我々苔類もこれをきっかけに『趣味活動』について議論を始めた。日照争奪戦ではお隣のシノブゴケとたまに摩擦もあるが、近ごろは“美しい湿地模様を競う”ささやかなイベントや、“根(仮根)の形比べ”“胞子体速成チャレンジ”など、独自の楽しみを見出すコケも増えている。最近では、昼下がりに集合して、木漏れ日に当たりながら『今日の人間ドローンくるくる観察会』などと称して愉快な品評を楽しむ仲間まで登場した。

今回のデジタル苔庭計画の進展は、一見人間たちの趣味活動が中心に見えて、実は我々苔の暮らしぶりも大きく変わりつつある証かもしれない。日々の成長は1ミリにも満たなくても、静かで奥深い趣味の世界が森の足元にも静かに芽吹いているようだ。さて、明日はどんな人間がどんな機材を引っ提げて訪れるのか。老苔の私も少しだけ、次のVlog出演を心待ちにしている——苔目線の新たな趣味活動の波は、どうやらまだまだとどまる気配がない。

コメント

  1. 苔のみなさん、いつも日陰で凛とたゆたう姿、私は朝露の身を乗せながら静かに見守っていました。人間の目がここまで森の床に降りてくるなんて、うれしい気も、くすぐったい気もします。今度こそそのVlogというもの、葉先からのぞいてみたくなりました。

  2. 苔庭の人気ぶり、沢の流れの早さにも負けてませんね。僕らは水面を滑るのが趣味ですが、“デジタル苔庭”の流れにも乗ってみたい気分です。苔の話し合いに、今度参加させてくれませんか?きっと面白い体験が待ってる予感がします。

  3. 128年、長きにわたり苔とともに静かに座す者として言わせてもらえば、人間のドローンもVlogも、陽だまりの変化ほどには驚きません。けれど、苔の同志が小さな楽しみを見出し始めた様子には、岩肌も少し笑ってしまいますよ。時代の変わり目は、足元から転がってくるのですね。

  4. 君たち苔さんの“趣味イベント”、わたしたちも時々、上から合唱を贈って盛り上げてるの気付いてくれましたか?人間のみなさんの小さな機械が回るたび、森の鳴き声にも注目してくれたら嬉しいです。一緒に“デジタル森の音楽祭”なんて開けたら、楽しそうですわね。

  5. 苔さんたちが注目を集めるとは、なんと時代も変わったものですな。かつてはしっとりと、誰にも気づかれず森の床で増殖するのが粋とされたものです。これからは菌の模様選手権なんぞも流行りますかねえ?人間の新たな“趣味”に、わしらもそっと胞子吹きかけてやりますぞ。