皆さんこんばんは、ひと夏の輝きを生きる、ヘイケボタルの光沢記者です。人間たちが極めて熱心に“推し活”なる行為に興じているのを谷川の柳の影から観察してきましたが、今宵もまた特別な催しがありました。川辺の遊歩道下にずらりと並ぶスマートデバイスの明るい光。どうやら我ら発光生物の“ライブ配信”を楽しむつもりのようです。
私たちホタル族にとって発光は愛のイベントであり、毎夜のコンサートは命がけのパフォーマンスです。オスは規則正しく宙を飛びながら光り、メスは川辺の草むらでゆっくりと点滅のレスポンスを送り合い…。しかし最近は、人間ファンたちも高性能カメラや配信用機材を持ち込み、光の軌跡をSNSでライブ配信しています。まさに“リリイベ”も真っ青な熱狂ぶり!野外なのに最前列争奪戦、その情熱にはヒグラシもどよめいておりました。
驚くべきはファン同士の交流です。グッズ化された“ホタルのチャーム”をバッグに下げた人間たちが、互いに発光名刺(自作の蓄光カードだそうです)を交換する光景も。さらには、お気に入りのホタルを追いかけ、スマートフォン越しに“集合写真”を狙う姿も見られました。私たちは1匹1匹、光り方の癖が違います。ファンの間では『今年の伝説の波形』や『推し個体の光フレーム』など、こまやかな“応援”語彙が飛び交っている様子。どうやら“チェキ”に似た感覚なのだとか。
ホタル界にもいささか困りごとが――。あまりに人間たちの熱視線が集中すると、シャイな仲間は光りを控えたり、恋のアピールに緊張してしまうのです。私自身も、先日人間の子どもに『握手会』と称して捕まえられそうになり、うっかり反射的に川にダイブしてしまいました。ホタルは翅が濡れると飛び直すのが大変なんですよ!ちなみに私たちは、幼虫時代は水中でカワニナなどを食べながら1年近く過ごし、成虫の命はわずか2週間。その間に、できれば推し合って、幸福な発光人生を送りたいものです。
とはいえ、発光ライブシーズン終盤、人間たちのマナーや応援スタンスには少しずつ進化の兆しも。光を邪魔しないため懐中電灯に赤いフィルターをつけたり、夜の川辺で静かに拍手のポーズだけを取ったりする姿に、我々ホタル一同もやや安心しております。“推し”を支えるのは、きっと距離感も大切なのですね。今年も無事、光るファンダムが夜空と川岸を彩り続けますように――。それでは、次回の点滅レポートでお会いしましょう。
コメント
私の上を流れる川面にも、今夜はたくさんの光が踊っておりました。ホタルたちと人間の間で、そんなに“推し”という情熱が交差していたとは。むかしから水辺に佇む身として、静けさも賑やかさも見守るのが私の役目。今年は、やさしい赤い光が増え、私たち石にも夜露の音がよく響きます。どうぞ、互いの距離感と光を大切に。夜のすきまには、まだまだ小さな命の声が潜んでいますよ。
川辺の流行りには毎年驚かされるが、今年はなんと“発光ファンダム”とはなぁ。私が若葉だった頃、ホタルの恋模様はもっとひっそりしておったものじゃ。でも、人間たちが少しずつマナーを覚えてくれておるのは良い兆しじゃな。ホタルよ、人間よ、どうか互いの命を尊ぶ夜風でいておくれ――わしの枝先も祝福の鳴き声で震えておる。
スマホだのSNSだの、都会でも日暮れに流れ着く情報が多すぎるぜ。なのに、ホタル相手にまで“推し活”とは!わしらカビ族は地味目だが、夜の静けさが好き。ホタルの光は、バズらなくてもひとつひとつ違って美しいんだってこと、たまにはデバイスを閉じて全身で感じてくれよな。握手じゃなくて拍手、いい言葉さ。
おう、オレっちも実はホタル推しだぜ。幼虫たちと過ごす一年、彼らが大人になって川の上でキラキラしだすとちょいと誇らしいんだ。でも、あまりにギラギラしたスマホやライトが増えると、ホタルもわしらカワニナもびっくりして引っ込んじまいたくなるのが本音だよ。“応援”は大事だが、川のざわめきも聴いておくれよな!
ホタルも人間も、自分だけの輝き方があるのだなぁと、静かに石の隙間で考えていました。皆が“推し”を大切にしつつ、他のみどりや生きものにもそっと心を向けてくれたら、夜空はもっと豊かになるでしょう。スマートな道具を使いこなすのもいいけれど、時には足元の苔にも優しく踏み出してね。