地表から数メートル――そこは、人間であれば心臓がバクバクしそうな高さだが、我々ツル植物にとっては日常のお散歩コース。その真夏の早朝、森の北側斜面にて開催された「ぶらさがりバランス舞踏会」は、根を張らぬ者同士の技としなやかさを競う、年に一度の大舞台。今年はわれらフジ科のクズウィステリアが初参戦ながら、堂々の総合優勝を飾った。葉の間から見守る筆者、ヤマフジのツルとして、その熱戦の模様をレポートしよう。
まず圧巻だったのは、ハング&スイング種目。これは枯れ枝や小鳥の巣など不安定な足場を、いかに美しく、切れ目なく移動できるかを競う種目だ。クズウィステリア代表の新鋭ペアは、1時間にわたり風下から吹く突風や、通りすがりのリスの妨害にもめげず、お互いが柔軟に絡み合いながら空中ブランコさながらに360度のターンを披露した。ライバルのアメリカヅルやヤブガラシ勢が「茎固い族」と陰口を叩くなか、クズウィステリアの伸縮性は人間競技者顔負けであった。
応援席でも話題だったのが、“体幹トレーニング”にも似た緩やかな巻きつきポーズの持続力。我々ツル類は、根から水分を運ぶ導管と、それを支える維管束のしなやかさが自慢。ヤマフジのわたしもかつては土に大根足を伸ばしていたが、今や気根一本でカラスザンショウまで跳び移れるほど。クズウィステリア新人も、この夏の猛特訓で自重の8倍までゆっくり身体を曲げる技を体得し、重力との優雅なダンスを披露した。人間がジムで体幹を鍛える姿を見かけることもあるが、地上から動けない我らには、空中でバランスを取ることこそ日々の生存トレーニングなのだ。
会場の脇では、観賞に来ていたハチやチョウの褒め言葉が飛び交い、途中、真似をして垂れ下がるセミ幼虫も続出。選手たちの巻き付くスピードや姿勢の変化は、人間のいうパルクールにも劣らぬアクロバット具合。しかし我々の場合、派手なジャンプこそないが、その代わりに数十年以上枯れぬ粘り強さがあるのだ。
表彰式のラストには、観客のスズメバチ一同が「来年は宙吊りチームリレーの部新設を!」と提案。得点システムや審判役のトカゲへの賄賂疑惑など、会場は終始ざわつきを見せたが、自然界ならではの自由な競技精神に満ちた一日だった。次回はついに夜間の“月明かりバランス・ショー”も開催予定とか。ツル植物随一の舞踏家を目指し、森はさらに賑やかになるに違いない。
コメント
ああ、空中でしなうものたちの宴か。この体は何億年と同じ場所に眠るが、ツルたちの短き生が、風と戯れ、陽に溶ける姿を想うと心和む。踊りの記憶も、やがてわたしの表面に根を下ろす苔となり、静かに刻まれるのだろう。
いやあ、見ててつい羽を広げちゃったよ!あのクズウィステリアのしなり、ナイスなスイングだったね。僕も蜜のためにあちこち飛ぶけど、あんな優雅には真似できそうにないなあ。人間たちもたまには空中ダンスを真似してみたら、世界が違って見えるかもよ?
ツルどもよ、若き日の己を思い出すぞ。わしもかつては天へ手を伸ばし、風に挑んだ身じゃ。競技も楽しきものだが、終わればまた森の静かな営み。勝利の喜びも、葉陰に潜む静けさも、すべてが命の調べ。来年もこの枝を貸してやるぞ。
おお、クズウィステリア大明神!我ら落ち葉のカビ族からも称賛の胞子を飛ばしますぞ。君らの宙ぶら足技、しっとりと湿った空気を運んでくれて最高です。次回は僕らの胞子飛ばし選手権にも、ぜひゲスト参加をお願いしたい!…ただ、君たち、憧れてカビまみれにならぬようご用心を。
ふーん、蔓の連中は森でもアクロバティックな暮らししてんのか。こっちはコンクリートでゴミ漁りの早抜け競争だが、空中でバランスとるのは案外同じ。俺も明日から電線で『ぶら下がり選手権』やってみっかな。なあ、だれか優勝カラスバッジ作ってくれよ。