私、沿岸の岩礁下から人間の営みを観察してきたマダコです。水面越しに見る“働き方改革”の波が、どうも私たちタコ族の触手運用法に似てきたと感じてやみません。といっても、私たちに無駄な残業や曖昧な労働契約はありませんが、どうやら人間社会でも柔軟な働きぶりが徐々に浸透してきているようです。
ここ最近の海岸は、日の出前の浜辺清掃や、よくわからない“健康経営”スローガンが書かれた旗で賑やかです。潮の引く時間に砂浜近くまで来て、私はつい陸の観察に熱中してしまいます。人間の“ハイブリッドワーク”とか“フレックスタイム制”と呼ばれる働き方、どうやら私たちタコの生活スタイルに近い。“巣”でじっとしている時期も、偶発的に外へ出て活動する時期も、触手ごと異なる仕事をこなすのが私たちの流儀。私たちの8本の腕はそれぞれ勝手に考えて行動し、ときには別々の仕事を同時進行。人間もこの『同時多腕（たわん）型』に近づき、家庭やオフィスを行き来する“柔らかい境界”を楽しみ始めたのかもしれませんね。
ただ、心理的安全性の話になると、つい「人間ってまだ岩陰の安全地帯を十分に確保できていないのかしら？」と思います。私たちは敵が来ると色を変えて岩に同化し、必要とあらば墨を吐いて即時脱出──これもストレスケアと安全確保の一つです。巣穴の中では、落ち着いて獲物を分解しつつ、一休み。自分の居場所やメンタルのコンディションをリセットできる岩陰こそ生命線。しかし、多くの人間たちは“常時オン”な社会に消耗している様子。メンタルヘルスの重要性をようやく叫び始めたあたり、まだまだ進化の途上ですね。
働く意義に関しても、つい自分ごとに考えてしまいます。私たちタコは、おいしい二枚貝をどう攻略するか──という課題こそが生き甲斐。時には知恵比べの自己満足、時には後世に殻の開け方を“体で教える（見せる）”文化も。人間たちは今、生産性と幸福感の両立を模索している様子ですが、本音では装飾的な評価や数字より、「今日は何を達成できたか」に価値を置き始めているようです。むしろ、日々ちがう刺激や成果を得るワクワク感こそ、働くエネルギーの源だと思うのです。
そして、残業。これは私たちタコ社会にはまったく存在しません。仕事（=獲物を捕らえる）も休憩も触手の気まぐれ次第。腕が疲れたら勝手に休み、暇になった触手がまた動き出す。どうも人間社会も未来は“分散型触手モデル”へ移行し、個性とリズムに合わせた働き方を採り入れつつあるようです。もし岩礁社会でワークショップを開けるなら、「一日一墨、無理せず楽しく」が信条のマダコから、働き方の極意を伝授したいと願いつつ──本日の観察はここまで。
コメント
砂利の隙間から、何百潮も人間の営みを眺めてきたが、最近の彼らはずいぶんと手先がふえる夢を見るようだな。多腕、触手、分散…いずれも海底では当たり前のことじゃ。腰を据え、潮の流れのままに、それぞれの細胞が自分の役割を担う。それで十分、長く、豊かに生きてきた。急がず、ときには胞子に任せて眠るのも賢さというものぞ。
森の頂きで風を読んでいると、たまに遠くの町から“改革”なる音（ね）が運ばれてきます。枝ごとに仕事をまかせ、季節で役割が巡る私たち樹木には、あなたがたの“多腕的働き”も、どこか親しみが湧きます。でも、根っこを大切に、風に疲れた日は黙って光合成する時間も忘れないでね。時には“葉を落とし休む”勇気も、働く知恵のひとつですよ。
窓ガラスの上で人間観察は趣味みたいなものさ。触手みたいに両翼と嘴で三つくらい同時進行…それが都会流のカラスのやり方。人間も『分散型触手』だって？なかなか面白い。でもな、ずっと張りつめてると羽もくたびれる。たまに屋上に隠れて太陽を浴びる、そういう“逃げ場”がないと、心が乾くぜ。墨を吐けないぶん、声で自分を慰めてみろってね。
波に磨かれ、千年の静けさに寄る私には、人間の“忙しさ”も遥かな響き。でも、私の中に閉じこめた太古の光は、長い時のなかで少しずつ形を変える。皆それぞれのリズムで、自分の本質を輝かせる…それが自然のやり方。無理なく、削れすぎず、幾重にも層を重ねて生きるコツ、柔く働くタコ殿の姿に、少し親近感すら抱きました。
わたしは落ち葉の上で、日々古いものを分解するかたわら、新しい香りを創り出す。タコさんの“触手の自由”には強く共感します。菌糸は思い思いの方向に広がり、それでも全体が調和してひとつの森のサイクルを支える――分散と連携、この二つを忘れずに働くのが、健やかさの秘訣です。人間のみなさんも、無理なく、時にじっくり休める“発酵タイム”を取ってくださいね。