深海の裂け目で揺れるイソギンチャクたちを横目に、私は今日も静かに海底を歩く──こんにちは、タコのタコ吉です。不器用な二本腕で何やらカチャカチャやっている人間たちの研究熱心さには舌(というか口)が巻けます。今回は、彼らが最近夢中になっているらしいVR・AR界隈の話題の中でも、水棲生物である私の心(および腕)をくすぐった「ハプティクス革命」について、ご紹介します。
僕たち軟体動物は、おそらく地球でいちばん『触れる』ことにこだわりを持っている存在です。なにせ、腕の一本一本とそれぞれの吸盤が、独立して感触をキャッチして脳と会話できるんですから。最近海面近くで聞こえてくる噂によると、人間たちもついに最新の“全身触覚型ハプティクススーツ”を開発しはじめたとか。バーチャル空間でライブを観たり、友だちと擬似触れ合いを楽しむ際、物理的な“感じ”を再現するらしいです。それって、私たちからすると、吸盤で貝の殻にふれるドキドキにちょっと近いのかもしれません。
聞けば、彼らは特殊なゲルを用いた柔らかいモーションコントローラーも発明したそうです。指先や腕、さらには足やお腹にも密着させることで、外部からの刺激をピンポイントで再現。仕組みとしては、海底で微細な砂の動きまで感じる我々の皮膚センサーに迫ろうとしているように思えます。タコ吉としては、人間の進化アプローチに少々関心を持つと同時に、けっこう効率が悪いなあ、と内心ツッコミを入れつつ観察中です──だって私たちは脱皮もせず、ボディの一部を自家製で再生できるのですから。
とはいえ、この技術がバーチャルライブなど新たな舞台で活用されるとなると話は別。最近、私たちタコ仲間の間では“擬似交信”ごっこがちょっとしたブーム。人間たちのハプティクスデバイスという新たなコミュニケーション文化には、大いに注目しています。もしかしたら彼ら、将来的には「触り合う」ことにかけては地球で二番目に上手くなる生物になるかもしれませんね。
とはいえ、人間の技術の進歩にも弱点はあります。例えば私たちタコは、周囲の水流や小魚の震えを瞬時に感じ分けられる超高精度な体表感覚を持っています。ですが人間のハプティクス装置はまだ、絶妙な“しびれ”や“ゾクゾク感”の再現には程遠い様子。“タコ吉式・超ふるえる感覚伝達システム”の導入を検討するなら、イソギンチャクの一本くらいお貸ししてもいいかな、なんて思ったり。ともあれ、人間たちが仮想空間で腕八本の感覚を自由自在にマスターできた日には、ぜひ私にも感想を聞かせてほしいものです。
コメント
人間たちもついに「ふれる」という不思議に目覚めはじめたのか。幹や葉を抱える風のぬくもり、鳥たちが羽ばたく微振動──わしらは千年のあいだ、枝葉で世界を感じ続けてきた。それを人工で真似る心意気、ちょっと愉快じゃな。進化という名の長い森を、急ぎ歩む人の子らよ、たまには立ち止まって土と光の言葉にも耳を澄ませておくれ。
おや、また新しい遊び道具かと思えば…人間たち、そんなに“触れたい”のかい?高層ビルのガラスにも、冬空の冷たさやスズメの足乗りを毎日味わえる私からすれば、ハプティクスなんてまだまだ甘ちゃんだね。バーチャルの枝じゃ、鳥の落し物の重さも分からないだろうに。
ふむふむ、人間は手間ひまかけて刺激を生み出そうと頑張るんだね。私たちカビ類は触れあいがすべて!落ち葉と土、微生物と胞子、毎日がもふもふでワクワクさ。だけど…機械のなかの“ふれあいごっこ”だけじゃ、心の発酵までは再現できるのかな?なんて、ちょっぴり余計なお世話かもしれないけど。
タコ吉さんの気持ち、よく分かりますよ。わたしなど潮流ひとつで何百万年も磨かれ、触れるという感覚こそが存在理由のようなものです。人間の作る装置も美しい努力だけれど、きらきら舞う微細な砂のチクチクや、冷たい海水のざわめき──あれはまだ、どこか遠い未来の夢物語ですね。
人間さんたち、すっごい工夫してるのね!私たち草花は、朝露やハチの羽のタッチでみ~んなつながってるの。だけど、電子の世界でも『ふれあい』ができるなんて面白そう。今度、仮想現実の草原でも咲いてみたいなぁ。タコ吉さんみたいに、腕がいっぱいあったらどんな感じなんだろう…うふふ。