砂浜の教育者シロチドリ、観光地改革の波に“ヒト目線”を研究

浜辺の巣のそばでシロチドリがいる前景と、奥には多言語の看板や電子決済機器が見える観光客の行列がある浜辺の様子。 インバウンド消費
変化する浜辺で、観光客とシロチドリが交差する一幕を捉えました。

波打ち際で毎年、子育て講座を開催しているシロチドリのわたし。今季の巣作り合間、抱卵中の暇を使い人間たちの観光地を観察してみました。どうやら“インバウンド消費”なる嵐に砂も巻き込まれている様子。浜辺を飛び回るはずのカニたちまでも、妙な外国語POPや電子決済器具に戸惑い気味。まったく、砂が耳にはさまるほどの変化ぶりです。

人間たちは、どうやら遠くから来る個体(彼らは“観光客”と呼ぶ)を呼び寄せ、地域にエネルギーをもたらそうと画策しているようです。私がヒナを連れて歩く浜辺に、突然見慣れぬ人間が話しかけてきます。「アクティビティ予約はこちら」と黒い板を掲げる異様な風景。チドリ界にあてはめるなら、巣作りレースのエントリー所を毎日増やしている感覚です。しかし、細かい砂利道をダッシュする私たちシロチドリのように、人間社会はこの変化にも蛇行飛行気味で適応中らしく、地方では“多言語対応”や“キャッシュレス決済”の青い光に右往左往している様子が目立ちました。

浜辺の端っこ、「伝統工芸体験」と題した小屋にグルグルと列ができていた日もありました。そこで観察するに、地元の巻貝が殻細工のデモンストレーションをしている……わけはなく、器用な人間がなにやら色とりどりの布や土をいじっています。私たちシロチドリの求愛ダンスほどではありませんが、その場はラテン語や英語など、砂の上にさえ異国情緒が溢れる不思議空間。小さな木製品や陶器が飛ぶように売れ、「地方創生の機運高まる」と、隣のハマヒルガオたちもざわめいていました。

さらに潮だまりに移動しますと、人間たちは公共交通機関の利用も工夫しているとのこと。列車やバス停の近くにカメラを設置し、リアルタイムで時刻や混雑具合を伝える「見張り番」システムを導入したらしいですが、シロチドリの警戒モードにはまだ遠く及びません。私などは、遠くで怪しい猫が身じろぎしただけでキュッと鳴きますから、人間たちにももう少し危険察知センサーが必要と感じます。

最後に、私たちシロチドリは毎年同じ浜へ“再訪”しますが、人間の観光客もまた“リピーター”と称してお気に入りの砂浜を再発見しているようです。彼らの道標にAI案内板や電子決済が加わった今、砂浜の未来はどう変化するのでしょう?今日も波紋を眺めながら、抱卵の合い間にヒトの経済行動を観察する私でした。ちなみに、シロチドリは卵やヒナを守るためによく『怪我をしたフリ』をして敵を遠ざける習性があります。人間の観光地改革も、表の賑わいの裏で小さな知恵が光っていると気付き、おかしみ半分で今後も見守り続けたいものです。

コメント

  1. あらまあ、人間たちのあわただしさと言ったら、根を張るわたしには到底ついていけませんよ。今朝も若いツルが『キャッシュレス』って何とざわめいていましたが、わたしの葉には小銭どころか朝露しか貯まりません。まあ、賑やかなのも悪くはないけれど、踏まれぬよう、ヒトも砂や花たちも思いやってくれますように。

  2. ヒトたちがわたしの同胞の抜け殻を『お土産』に持ち帰るのは、毎度のこと。最近はラテン語で『ビューティフル!』と叫ばれるたび、照れくさいやら貝殻の薄さが心配やら……。砂浜の賑わいは悪くないけれど、貝殻も家。帰る場所のない潮の同胞が増えぬよう、ヒト目線にも少し潮風のやさしさ、染みてくれたらうれしいな。

  3. ひっそりと漂うわたしには、派手な看板や電子音は騒がしいだけ。でも、ヒトの工夫も菌糸のごとく広がるものなんですな。この地表の変化についていけずに腐ってしまう者もいるけど、静かに横たわる流木の下、わたしはこれからも新しい風景を分解し続けます。どうぞ、微細な命の居場所も忘れずに。

  4. わしはずっと地中で渦を巻く砂鉄。外界の騒ぎは波紋のようにしか届かぬが、最近の浜辺の震動は細かい粒まで伝わってくるぞ。人間たちよ、表面だけ磨いても、根っこが錆びては浜がもたぬぞ。潮や風や、ちいさき鳥たち――皆でバランスとってること、時折思い出しておくれ。

  5. ヒトの観光客が落としてくれる新種の食べ物は、都会に飛ぶわたしらにとってなかなかのごちそう。浜辺の兄弟鳥たちもたまには洒落たメニューに出会うだろうが、妙なPOP看板は目障りでたまらん。電子の光でなく、朝日と夕陽のスケジュールだけは、どうか守ってもらいたいもんだネ。