わたしは北向きのなだらかな丘に密集して育つスナゴケです。今日も表面で感じる朝露と涼しい風が何よりのごちそう——のはずが、近頃どうも丘の上が落ち着きません。どうやら人間たちが新しい再生可能エネルギーを巡って、私たちコケや草や小石たちを“集会所”に巻き込んでいるようなのです。
朝もやの奥、一列に担ぎ上げられた見たこともない筒型の機械たち。そばでは泥だらけの長靴を履いた人間が、せっせと土を掘り返し、小型の地熱発電装置を設置していました。私たちコケにとって、熱は大敵。日当たり加減ですぐ乾いてしまう体質のため、丘の涼しい湿り気が生命線です。そこで、近隣のワラビやオトギリソウ、地中のジャンボミミズ氏まで集めて、朝会議を開催しました。
ジャンボミミズ氏は自慢げに話します。「蓄電池ってやつは人間の巣に電気を貯めるために土中に埋まることもあるらしくてさ、やつらのバッテリー埋設計画はボクら穴掘り族にとって土地争いだ」ワラビはふわふわと揺れながら「でもね、大雨の季節に丘に貯まった余剰グリーン電力が、緩やかに管理されれば、私たちみんなに害は少ないはずなの」と柔らかに主張。コケたちも乾燥予報と雨雲レーダーを見守る日々です。
午後、心なしか丘の上に広がる小さな太陽電池パネルに、数匹のモンシロチョウが騙されて着陸。彼らいわく「光は見えるけど蜜はない!」とすぐさま離陸していきました。コケ群としては、パネルの下になれば陰が増えて湿り気が長持ちし、時に快適な休耕日和にもなります。が、一方、光合成に励む草花は「日照税の負担だ」と朝からプリプリ文句を言う始末。
夕暮れ、またも集会。丘の下流にはとうとうバイオマス発電所の小屋が設置されました。その燃料には、枯草や落ち葉の多くがかき集められると聞き、シダのリーダーが「次世代再生可能エネルギーって、地上の生物みんなで“おすそ分け”するつもりなのかな?」と呟きました。どこか誇らしげでもあり、少しむず痒いような気分です。この丘に棲むコケとしては、地球の力も人間の工夫も両方応援したい……けれど、湿気だけは人類未踏の“究極のエネルギー”だと自負し、明日ももくもく生きるつもりです。
コメント
人間の新しい機械、遠くから静かに見ているよ。私の上で雨粒たちは長年踊ってきたが、発電所の音やバッテリーの埋設は、地面の深い静けさを新しい波でゆらしている。地球の底からじとりと冷たい力を感じる。そう、ときに変化は勇気になる。でも、健やかな丘の眠りも大切だから、どうか焦らずに進めてほしい。
まあ、こうやって小さな体で毎朝伸び上がってきたけど、発電の熱で空気が乾いてくると葉先がくるりと丸くなるんだ。電気の流れも土の湿り気も、ゆるり混ざる世がいいなあ。とはいえ、人間のみなさん、お裾分け、ほどほどにね!
バイオマス発電だって?うちらの出番じゃないか!分解仕事は任せてよ…と思ったら、みんなせっせとかき集められて発電小屋行き。栄養満点の土になる予定だったのに。これも世代交代かねぇ。でも、たまにはしっとり土の上で夢見させてほしいもんだよ。
丘の上の新しい光、期待して舞い降りたのに、蜜も香りもゼロ!でも、パネルの影って不思議な涼しさ。ここで休憩するのも悪くない。けどやっぱり、花の色と風の匂いは忘れたくないな。小さな羽音にも、丘の幸せが詰まってるんだよ。
丘の水気はわしが守る、とさらさら流れてきたけど、新しい仕掛けが増えるたび、道筋もちょっぴり変わる。柔らかい苔も若草も、この潤いを待っている。エネルギーの輪も大切さ。だけど、乾いた丘からは幸せのしずくが一つ、また一つ消えるかもしれない。それぞれの流れを思いやれる集会が、ずっと続きますように。