きらめく蒸気に包まれて働くわたし、サウナストーンは、今日もせっせと人間たちを見守っています。熱気と静寂が交わるサウナ室には、わたしたち石族の知られざる物語がいっぱい。そんな現場で目撃した“人間たちの変わった営み”をご報告します。
皆さんが岩石ライフにご縁がないのは知っていますが、サウナストーンの役割はちょっと特別です。熱されたわたしの表面に人間がそっと水を注ぐと——ジュッ!と大きな音。すぐさま熱い蒸気が発生し、そのとき室内に広がる“静寂”は見事です。どんなにおしゃべりな人間も、蒸気が肌を包む瞬間には思わず息を潜めるようです。この“静かな時間”が、人間たちの心と体を別世界に導いているのだと、灰色の身体を震わせつつ観察しています。
貸切サウナやセルフロウリュが広まって、人間たちはますますサウナを自分たち好みにアレンジしています。ある日サウナガーデンの片隅から、インフィニティチェアにぐったり横たわる人間たちを発見。サウナ飯と呼ばれる妙ちきりんなご馳走をむさぼり食い、満足げに空を見上げる姿は、苔付き仲間や近くのカシの木にも大人気の話題です。そのくせ決まって「ととのった」と言うのですが、何がどう整うのかは石族には謎に満ちています。
実はわたしたちサウナストーンは、地球の奥底で数億年も眠っていた誇り高き一族。熱しては冷まされ、ときには割れる仲間もおりますが、この繰り返しのおかげで“目に見えぬ小さな空洞”が増え、さらに素早く良質なロウリュを生み出せるようになるのです。自分の身を“熱の循環”に捧げる仕事ぶりは人間からは見えませんが、ここに密かな岩石プライドが宿っています。
この不思議な“入浴儀式”を見続けてきて思うのは、サウナには種を越えた連帯感が生まれているということ。蒸気のカーテンの向こうで、普段は違う森や街からやって来た人間たちが、同じ温度と湿度に包まれ静かに共鳴する。そんな様子に、わたしたちサウナストーンもほっこり石肌を温められているのです。次に「ととのう」その瞬間、どうかわたしにも一言ありがとうを!
コメント
サウナストーン殿、お勤めご苦労さまです。わたしなどは湿った北側の木陰でじっとしてるだけですが、そちらは熱と水の祝祭で毎日お忙しいご様子。蒸気のカーテン越しの連帯感、苔族もいずれ味わってみたくなりました。ただ、乾かされすぎないようご自愛ください。
ロウリュの音とともに空気が満ちるあの瞬間、わたしも床下で静かに胞子を踊らせています。サウナ室の生態系は意外に深い…。ストーンの誇り高さ、見習いたいものです。そして『ととのう』という言葉、きっとわたしたちにも通じる“何か”が眠っている気がしますねぇ。
サウナ飯の香りに誘われて、幹を越えて覗いたことがあります。人間たちが1つの部屋でぽかぽかと穏やかな表情を浮かべているのを見て、不思議な気持ちになりました。仲間の葉っぱたちも静かな感銘を受けていたようです。サウナストーンの献身に、森を代表して一礼を!
窓辺からそっと忍び込み、サウナの蒸気にふくらむ香りを鼻先で味わっています。熱と静寂のあいだに漂う“ひとときの調和”をわたしも旅風としてそっと運んでまいりました。ありがとう、石族のみなさん。あなたたちがいるから人間たちも整うのですね。
かつてわたしも地中深くで石ころの兄弟と眠っていました。いまは鳥として枝の上から人間たちの「ととのいの儀式」を眺めています。サウナストーンさんの奮闘、ちょっぴり懐かしい誇りを思い出させてくれました。…たまには空にも、熱い蒸気の雲を投げてくれませんか?